ハーメルン
転生先の学友の顔が強すぎる件
第9話 偽善

 開戦初日の夜。
 初戦を快勝したこともあってか、六角軍の陣中は賑やかだった。
 まだ戦は続いているが、遊女だとか商人を引き入れてどんちゃん騒ぎをしている。

(風紀の乱れは六角軍の色だがなぁ。さすがにまだ気が早いだろう)

 一応、俺はどんちゃん騒ぎには加わらず、手勢を警戒に当たらせている。
 まだ戦が終わってないのに酒盛りとか、今川家や関東の両上杉家とおんなじような末路をたどりかねない。

「皆の者、よくやってくれた。おかげで浅井はもはや風前の灯火ぞ」

 そんな事例などつゆほども気にしてないのか、評定中にもかかわらず義賢様は傍に酒瓶を携えながら評定を進めていく。

「特に高村。此度はお前が阿閉貞征を討ち取ったことで、当方有利に傾いた。お前が一番手柄ぞ。やはり、猿夜叉丸よりお前が強い。お前がいれば、当方安泰ぞ」

 義賢様が肩をバシバシと叩きながら、褒めちぎる。
 評価されるのは嬉しいのだが、酒臭いのはキツい。

「そこで褒美を用意した。義定、連れて参れ」

 言うやいなや、義定が評定の間に数人の姫武将を伴って現れる。
 皆、後ろ手に縛られており装束は血や泥に塗れていた。
 彼女たちの登場に、男の家臣が色めき立つ。
 無理もない、彼女たちは捕虜として捕らえられた姫武将たちだ。姫武将は殺さないという暗黙の了解こそあれど、彼女たちの未来は暗い。尼として寺に閉じ込められるか、敵の慰み物になるかの二択だ。そして、だいたいは後者になる。
 義賢様はおそらく彼女たちを褒美として、下賜するつもりなのだろう。

「さあ、高村。この中から好きな女子を選ぶがよい。安心せい、全員生娘なのは確認しておる」

 ニタニタとキモい笑みを浮かべながら、義賢様は言う。

「皆、上玉ではないか。羨ましいぞ高村」

 義治様や家臣団までもが囃立て、完全に場の空気が狂ってしまっていた。
 正直選びたくはないのだが、酒が入った義賢様の機嫌を損ねると割と面倒くさいので、穏便に選ぶことにする。

「なぁ、義定。この中で一番気性がまともそうなのは誰だ? 俺はそいつにするわ」

「なら、この娘だね」

 義定に連れられて件の姫武将のところに足を運ぶ。
 先端だけ黒くなっている長い栗色の髪に、豊満な身体つき。背は割と高く160後半ぐらいか。顔はすっきりと整っていて、現代でも普通にモデルとしてやっていけるぐらいには美人だった。

「ほう、その娘を選ぶか。お目が高いな、わしも同じ選択をしただろう」

 義賢様、いいや色ボケ親父で。
 色ボケ親父が鼻を伸ばしてうんうんと頷いている。
 それを聞いてなおさら、この娘にすることに決めた。

「決めた以上、俺は帰らせていただきたい。見張りの番に付いている以上、長々と陣を空けておくのはまずい。後の皆さんはどうぞお楽しみください」

 そう言って、俺は評定の間を辞した。

 *

 持ち場に帰ってまず俺がしたことは、連れてきた姫武将の縄を外してやることだった。

「えっ、よろしいので?」

 突然解放された彼女は目をぱちくりさせてこちらを見る。
 汚される覚悟はとうに出来ていたのだろう、そうでなくてはあの変態どもが騒ぐ評定の間で落ち着いてはいられない。

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