ハーメルン
生徒会長が栞子なのは間違っている?
第四幕「夢の過去」

『おい、蝶。何で泣いてんだよ?』
『……泣いてない。ただムカついただけ』
『泣いてないなら涙流すなよ。んで、どうした?』

 何の記憶だろう? 凄く懐かしい夢だ。そこには小さい頃の俺と、黒髪のショートヘアーで八重歯のある大人びた女がいた。あれ? なんで俺は泣いてんだろ? 

『みんなが言うんだ。姉さんが林檎ジュースばっかり飲むから子供だって』
『はぁ? なんじゃそりゃ』
『大人達はコーヒーを飲むのに、姉さんだけ林檎ジュースしか飲まないからって。大人なら苦いの飲んで当たり前だって……だから、喧嘩した』
『んで、言い合いで負けたから泣いてんのか』
『泣いてない!』

 小さい俺がそういうと、女は俺の頭に手を置いて言った。

『いいか、蝶。私はな、好きで飲んでんだよ。コーヒーも飲めない事はねぇが、私は林檎ジュースが大好きなんだ。自分の大好きを否定する奴は無視しろそんな奴はガキだからな』

 そう言って、彼女は冷蔵庫を開け、何故か置かれていたブラック缶コーヒーの蓋を開け、一気に飲んだ。

『姉さん!?』
『……なんだよ、結構苦いじゃねーか。まぁ、言っただろ? 飲めない事はないって。ただ、私は林檎ジュースが大好きだから飲む。それだけだ。だから、気にすんな』
『そうだけど……』
『まぁ、なんだ。私のために喧嘩してくれてありがとう。蝶』
『当たり前だよ。俺には姉さんしか居ないんだから』
『……お父さんとお母さんの顔すら覚えてないのはやっぱり辛いか?』
『ううん。産まれた後すぐに病気で死んだって言われたけど、正直記憶が曖昧だからね。俺に取っては姉さんが1番大切だよ』
『そんなこと言うなよ、アイツらに殴られるぞ』
『なにそれ、怖い』

 懐かしい記憶だったと思ったが、だんだんと思い出してきた。これは……俺と春香(はるか)姉さんの……

『姉さん! 姉さんの林檎パックジュース飲みたい!』
『また? もう冷蔵庫にねぇんだけど? ってか、最後の一個飲みやがったの蝶だろ』
『買ってきてよ! 探しても姉さんの林檎ジュースどこのスーパーにも無いんだ。だから俺には見つけられないよ』

 おい、やめろ。そうは言えなかった。でも言いたかった。だって、その先は……

『しょーがねぇな。ちと行ってくるわ。待ってろ』

 姉さん、行くなよ。今行ってしまったらアンタは……

『うん! 良い子にしてるぜ!』
『まぁ、この前のテストも満点取ったから許してやるよ。それじゃあな』
『いってらっしゃい、姉さん!』

 そして、気が付いたら俺は病院にいた。

『……姉さん? 寝てるの? ねぇ、起きてよ? ねぇ、なんで目を覚まさないんだよ? なぁ、嘘だよな? 俺のせいなのか? 俺が姉さんにただお使いさせただけなんだぞ? 俺は……姉さんと、林檎ジュースを飲みたかっただけなんだぞ!? なのに……なんで……』

 死んでんだよ。なんて言いたくても無理だったのだ。言ってしまったら。俺は姉の死を受け入れてしまっていたから。中学生の俺には地獄だったから。

『……もういいよ。林檎ジュースなんていらねぇよ。こんな物のために、姉さんは死んだんだ! 俺の我儘で、姉さんは、大切な人を、無くして……あああああ!!』

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