勇者凱旋:前編
「……やっと、終わったんだな」
巨大な城の最奥。激しく破壊された玉座の間。
その中心に、一人の男がぐったりと座り込んでいた。
男は手製の煙草から紫煙を燻らせ、肺を満たす煙をゆっくりと鼻から吐き出す。
「ふう……」
年は四十の半ばに見える。
白髪混じりの短髪で、ぞっとするほど冷たい光を放つ剣を持った──しかし『歴戦の戦士』というより『くたびれた敗残兵』と呼ぶ方がしっくり来るような、覇気の無い中年だ。
その男はふと思い出したように、懐から一本の腕時計を取り出した。
チープなデジタル表示の、中学生が使っていそうな古びた腕時計だ。
太陽電池で時を刻み続ける時計盤は『西暦2020年』を示している。
(そうか。もう三十年になるのか)
男は首をもたげ、壊れた天井を見上げる。
崩れた石造りの隙間から満点の星空が見えた。
あの空のどこかに地球もあるのかな──とノスタルジーな気分に浸りつつ、深いため息を吐く。
「……いってて。肋いってんなこれ。骨折なんていつぶりだ? 最近年のせいか回復薬の効きも悪くなってきたし、参っちまうな」
あー、強かった。
脇腹をおさえてそうぼやく男の目の前には、頭を叩き斬られて死んだ巨大な怪物が横たわっている。
今やただの肉塊と化したそれは、男にとって非常に因縁深い相手であった。
──千魔の統率者、理を喰らう者、あるいは"魔王"。
人々からそう恐れられていたこの怪物は、男が三十年前に勇者として日本からこの世界へ召喚された原因でもあるのだから
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