ハーメルン
おっさん勇者ナガミネの異世界再遊紀
勇者凱旋:後編



その頃王城は、数十年ぶりの大騒ぎに見舞われていた。

「な、なんですって!? ゆ、勇者様が、帰還なされた……!?」
「は……聖剣の抜剣、"勇者の証"の発光が既に確認されています! 本物の勇者様で、まず間違いないとの事です!」

宰相(さいしょう)のバブルスから受けた報告に耳を疑い執務室の椅子から勢い良く立ち上がったのは、金色に煌めくブロンドの髪を編み合わせた少女。

彼女の名はアイリーン・イザベラ・エインベリオス。当代の国王だ。
二人いた兄を流行り病で亡くし、数年前に繰り上がりで王位に就いた彼女は、少女特有のあどけなさが残る唇を震わせて「そ、それは本当ですか!?」と叫んだ。

「本当ですとも! なんと喜ばしい……! 今現在、陛下に謁見するためこの城へと向かっているらしいですよ! あぁ……! 楽しみです! 三十年前、先王様と共に立ち会った勇者召喚の儀式、私は今でも鮮明に思い出せますぞ!」
「あ、あぁ……そ、そうですかぁ……」

(う、嘘でしょ……やばい、頭真っ白になってる)

今年で十六歳になったばかりのアイリーンには、当然ナガミネとの面識は無い。
しかし彼女の父である前国王から、彼については何度も語り聞かされてきた。

『単体でも国家を滅ぼしうる魔王軍の幹部たち。その大半をアイリーンが物心付く前に壊滅させた大英雄である』と。
そう、物心が付く前。
それゆえ彼女の勇者に対する思い入れは、周りの大人たちほど深くは無い。

彼女は全盛期の魔王軍を知らないのだ。
だから『絶望的』の言葉さえ生温かったという当時の戦況を塗り変えたと言われても、いまいちピンとこない。

それに彼女は昔から、教科書で学んだナガミネの行動に違和感を抱いていた。
もしある日突然見ず知らずの大地に呼び出され「自分達のために命をかけて戦え」と言われ、そこから三十年間も人は戦えるものだろうか。

否。そんな人間は存在しないか、存在したとしてもどこか壊れた存在だとアイリーンは思ってしまう。
だから彼女は、世間にあふれる英雄譚の類いが苦手だ。英雄と呼ばれる壊れた人々の物語が苦手だ。

「え、ええっと、確かここに……」

アイリーンは引き出しの中をごそごそし、そこから一冊の本を引き抜いた。タイトルは『勇者ナガミネ伝説』。
著者の欄には彼女の父の名前が書いてある。

亡き前国王はナガミネの熱狂的なファンだった。それこそ自分で本まで書いてしまう程に。
たまの休みに二人で食事をしても『先日、勇者様から定期報告が~』みたいな話ばかりされていた記憶がある。
アイリーンは恐る恐る、本のページを開いた。
_____________
【勇者ナガミネのここがすごい!】
・視線だけで魔物をミンチに変えられる!
・魔物の群れを素手で壊滅させられる!
・水魔法で山に風穴を空けられる!
・炎魔法で海を蒸発させられる!
・剣を振り始めて一週間で騎士団長を圧倒する!
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
「ひぃぃぃ……!」


[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/8

[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク
携帯アクセス解析