『聖都へ』
ベリーズ村の脅威は去った。
生き残った村人たちは、オークに殺された村人の死体に布をかけて丁寧に運んでいる。
沈痛な空気の村の中心で、ナガミネはこの村の村長と話していた。
「剣士様。私たちを助けてくださり、本当にありがとうございます……!」
「いいよこのぐらい」
「いえ! このお礼は必ず、必ずさせて頂きます!」
「別に礼は要らねえからさ、いくつか質問していいか?」
村長の老人が深々と頭を下げてくるのを横目に、ナガミネは聖剣に付いたオークキングの血を拭き取って背中に装備し直した。
「質問……ですか?」
「ああ。ここはなんていう国だ?」
村長は不思議そうな顔をしながらその問いに答える。
「ディルム聖王国、ですが」
「ディルム、ディルム……駄目だ、知らねぇ」
ディルム聖王国、などという国名をナガミネは聞いたことすら無かった。
分かるのは名前からして宗教色の強い国なのだろうと言うことぐらいのもの。
だが、まだここがエインベリオス王国のある世界と別世界だとは限らない。単にナガミネの知らない国の可能性もある。
「……世界地図ってあるか?」
ナガミネは少し考えた後、村長にそう聞いた。
世界地図を見てナガミネの知っている国名や地名が一つも無ければ答えが出る。
それに、ここがもし別世界だとしたら地図は最重要項目だ。
まともにマッピングされていない魔王軍の領域を数十年歩き回ったナガミネは、地図の重要性を身に染みて知っている。
地図が無かったから行きは何十年もかかったし、逆に帰る時は行きで徹底的にマッピングを済ませていたお陰でスッと帰れた。
地図、大事。これは人生の教訓にすべきだ。
「世界地図……ですか。おいエリック! お前、冒険者時代に使っていた地図はまだ残しているか?」
「えぇっと……はい村長。家を探せば出てくると思います」
「剣士様に見せて差し上げてくれ。どうやらご入り用らしいのだ」
「わ、分かりました! ナガミネさん、こっちに来てください!」
エリックと呼ばれた男に着いていき、ナガミネは民家に入った。
エリックは酷く緊張した様子で、そわそわしながら家財道具をあちこちひっくり返して地図を探している。
「おいエリック。別に急がなくても大丈夫だぞ」
「は、はいっ!? い、いいや別に、そういうわけでは……」
力=序列だった元冒険者の性か、エリックは圧倒的強者であるナガミネに対して非常に萎縮してしまっていた。
目の前の御仁は間違いなく、自分が今までに出会ってきた人間の中でぶっちぎりの最強なのだ。そんな人物を待たせてしまっている事に、どうしても焦りが募る。
「……あった! ありました!」
「見せてくれるか?」
冒険者時代に使っていた地図は机の一番下の引き出しの、更に奥に丸まって入っていた。それを急いで広げてナガミネに見せる。
しかし、地図を見た途端ナガミネは怪訝な顔になった。
(文字が読めねぇ)
聖剣には言語と文字のフルオート翻訳魔法が搭載されているが、ナガミネは普段魔力の節約のために文字の翻訳機能を切っている。
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