『ギルドと初依頼』
「着いたっすよーナガミネさん。起きてください」
「んあ……やべ、寝てた。もう着いたのか」
ユースティティアに肩を揺すられ、ナガミネは目を覚ました。馬車の振動は止まっている。どうやら到着したようだ。
硬い席の上で眠ったせいでバキバキになった体を伸ばしながら、ナガミネは馬車から降りた。
「ここが聖都スルヴ・ソルンっす」
「おお……凄い活気だな」
聖都グラン・ソルン。
びっしり立ち並んだ店に賑やかな人々の声。そこにはナガミネが久しく見ていない、平和な都会の喧騒があった。
武器を背負った荒事を生業にしていそうな連中も多く街を行き交っている。
ああいう手合いが食っていける街なら、俺が路頭に迷う事も無いだろう。
そう分析しながらナガミネはユースティティアに問いかける。
「なぁティティ。この辺で何か良い感じの働き口は無いか?」
「……? なんすか、その『ティティ』って?」
「ユースティティアじゃ長いだろ。あんなの一々言ってたら噛んじまう」
「あー、そういう事っすか。好きに呼べば良いっす。名前なんて単なる符号っすからね」
ユースティティアはそれから「働き口っすか……」と顎に手を当てて考える。
「なら、冒険者組合に行けば良いんじゃないっすか?」
「……さっきエリックにも言われたけど、冒険者ってなんだ?」
その言葉を聞いて、ユースティティアは怪訝そうな顔になる。
冒険者ギルドは世界中に数千支部存在し、それを知らない者など普通は居ない筈だからだ。
「ナガミネさん……聖都はおろか冒険者まで知らないって、マジでどんな山奥から来たんすか?」
「常識を知らないことに関しては自信を持ってるぜ」
「そんなん持たなくて良いっす。……そうっすね。冒険者組合は、平たく言えば登録者に単発の仕事を仲介・斡旋する所っす」
「単発の仕事斡旋所?」
聞き覚えのない言葉にオウム返ししたナガミネに対し、ユースティティアは答える。
「依頼者が申し込んだ仕事を、その依頼の難易度に適した冒険者が受けられるっす。簡単なのもいっぱいあるんで、仕事さえ選ばなきゃ食いっぱぐれないっすよー」
「……あー、なんとなく分かった」
つまり日雇い版のハローワークみたいなもんか。
ナガミネはユースティティアの言葉を頭の中で噛み砕いて理解した。今の自分にはもってこいだ。
「組合の建物は……ほら。西の方にでっかい木製の建物が見えるっすよね。あれっす」
「あそこか。道に迷う心配は無さそうだ。それじゃ早速行ってみるな」
「あ……ちょっと待って欲しいっす」
冒険者組合の方に歩こうとしたナガミネを、ユースティティアが引き留める。
ユースティティアは自分のポーチの中をごそごそして何かを取り出し、ナガミネの手に握らせてきた。
丸い銀色の金属だ。表面に剣のような模様が書いており、貨幣のように見える。
「これどうぞ。冒険者組合の登録費に使えるんで」
「良いのか?」
「私は守銭奴なので、あげるわけじゃないっすよ。次会う時までにきっちり稼いでおいて、耳揃えて返して欲しいっす。ナガミネさん強いんでしょ?」
「まあな。剣一本で世界だって救えちまうんだぜ」
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