ハーメルン
おっさん勇者ナガミネの異世界再遊紀
『"剱の聖者"』

「ナガミネー! また冒険の話してー」
「夜な」
「ナガミネー、煙草は体に悪いから吸っちゃいけないってアシュリー先生が言ってたよー?」
「俺のは特別製だから良いんだよ」
「なんか面白いことやってナガミネ!」
「ほら見ろ、リンゴ潰し」
「「「すげー!!!」」」
「こらナガミネ! 食べ物を粗末にするな! あと煙草を吸うなら外でだ!」
「はいはいアシュリー先生……」

アシュリーの孤児院に居候し初めてから二日目の朝。ナガミネはすっかり子供たちの人気者になっていた。
孤児院の子供たちからすればナガミネは突然現れた面白いおじさんであり、人生の大半を旅に費やした彼の臨場感溢れる体験談は子供たちをこの上なくワクワクさせた。
潰した果物を子供たちに渡し、孤児院の外に出てからナガミネは煙草の煙を吐き出す。

「ふう……」

孤児院での生活は穏やかだ。
アシュリーの作ったご飯を食べて、そこら辺をぶらぶらして、夜になったら寝る。そんな生活。
アシュリーは家事をしたり子供たちに授業をしたり凄まじく忙しそうだが、ナガミネは非常に悠々自適な暮らしを送っている。


(一日しっかり休んだし、今日からまた冒険者組合に行くか)


ここに来た目的である孤児院の留守番依頼は一週間後だ。それまでは別の仕事を受けても問題ないだろう。
朝日を浴びながらラジオ体操でじっくりと体をほぐし、ナガネミは院内に置いてある聖剣を取りに行くため中に入った。


「あれ……? 何やってんだアシュリー先生」


院内では十数人の子供たちが列を作っている。その列の先には手に注射器に似た器具を持ったアシュリーが椅子に座っていた。
ナガミネが疑問に思い近付くと、アシュリーが気が付いて振り向く。

「……おお、ナガミネ。これが終わったら朝ご飯にするから少し待っててくれ」
「注射器なんか持って何やってるんだ?」


アシュリーは子供から抜いた30CC程の血液を、器具から別容器に移しながら答える。

「そう、だな……ええと。貧民街はあまり衛生的じゃないから、危ない病原菌が多いんだ。それに子供は抵抗力も弱いからな。月に一度はこうして子供たちの血液を調べている」
「へー、医学の心得があるんだなアシュリー先生は」
「……うん、そうだ。私には、医学の心得があるんだ」

少し目線を逸らしながら、アシュリーはそう言った。
この孤児院は子供たちの健康管理もバッチリなようだ。子供達も注射には慣れっこで、嫌がったりはせず朝ご飯の話などをしている。
それからナガミネは朝飯を食べ、聖剣を背負って冒険者組合の方に出発しようと外に出た。
前回と違って今日は朝だから、きっとまともな依頼があるだろう。

「それじゃ、行ってくる」
「ああ、行ってらっしゃいナガミネ。夕飯までには帰って来るんだぞ」
「「「行ってらっしゃーい!」」」

アシュリーと子供たちに見送られながらナガミネは冒険者組合に出発する。まるで世帯持ちのようだ。思わず苦笑いしてしまう。

朝の貧民街は意外とせわしない。
せっせと屑鉄を集めている者、二日酔いで道端に嘔吐している者、何かを言った言わないで口論している者などがそれぞれの生活を送っている。

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