2話 顧客との円満なコミュニケーションも大切
始まりは中学の頃。心無い同級生の言葉からだった。
「▫️▫️の個性って『敵』向きだよなー」
そん時はぁ……なんて返したかあんまり覚えてない。
いや、怒りのあまりーとか、絶望に沈んでーとか、そんな感じではなく。
せっかく『個性』があるんだから、どうせならそれを使って上手いこと人生の勝ち組になれねぇかな、なんて真面目に考えてたからだ。
実際、個性を使った職業はある。
ヒーローなんかがその最たる例だ――っていうか個性を大手を振って使うには『プロヒーロー免許』を取るしかないから、必然的に個性を使う仕事をしてる人は全員ヒーロー免許を持っていることになる。
とはいえ俺はヒーローなんかになる気はなかった。
誰が好き好んで『誰かのために自分を犠牲にする』なんてなんのメリットもないことをするかって話だ。
俺は楽して人生の勝ち組になりたいのであって、苦労して誰かの為に生きたいわけじゃないのだ。
さて、まあそんな訳でヒーローになるのを拒否した俺だが、かといってヴィランになる気もサラサラなかった。
なんでかって言うと、まあ普通に人殺すとか嫌だったからだ。
他人がどうなろうが知ったこっちゃないし、殺してやろうかコイツと思うこともあるが実行に移すことは無い。人から恨み買うのめんどいし。
ヒーローみたく面倒くさくなくて、ヴィランみたいに血生臭くない、俺の『個性』を活かせる、そんな仕事。
そう考えている時に思いついたのが、今絶賛営業中のこのお仕事。
最初は運び屋的な事をやってたはずなんだが、気がついたら何でも屋みたいになっちまってた。
盗み、運び、店番。殺し以外なら何でもござれ。絶対に失敗しない“何でも屋”ワタリ様とは俺の事だ。
「どーもー、ワタリでーす。よろしくお願いしマース」
へらぁ、と適当な笑顔に適当な挨拶を乗せてお届け。
「おい黒霧、マジでコイツ連れてくのか?」
「先生からの紹介ですから、腕は確か……のはずです」
どうやら今回の依頼主は随分真面目なヤツらしい。適当な挨拶は気に入らなかったようだ。
「で、今回の依頼に関してなんですけど」
「チェンジだ」
「あん?」
ドカッ、と机の上に乱暴に足が乗せられた。
「チェンジだって言ったんだよ。俺はお前みたいなのは嫌いなんだ」
「奇遇だな。俺もお前みたいな偉そうなのは好きじゃない」
「それなら――」
「が、もう仕事は受けたし前金も受け取った。ってかそもそもチェンジ受け付けてないから無理だ」
あ、何か飲み物ちょうだい、とモヤモヤの人に声をかける。
「知ったことかよ。金はやるからとっとと出てけ」
「まあそう言うなって、これでもそこそこ名は売れてんだぜ。聞いたことない? 何でも屋ワタリ」
「ないな」
「ほーん、さてはお前モグリだな」
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