ハーメルン
黎明の軌跡 Break the Nightmare
第10話 霧払いの葉
⑭【《ロア=ヘルヘイム》は過去、現在、未来が圧縮されて存在すると同時に、時間の概念が存在しない世界である】
MWLエリアを開放した直後に、《幻夢の手記》の⑭番は開示された。
解釈が難しいが、過去から未来にかけての時間軸としての繋がりは一本で、それらがこの《ロア=ヘルヘイム》に集約されているということだそうだ。つまりパラレルワールドのような分岐された世界から、自分たちがそれぞれに呼び込まれたわけではない。
そして“時間の概念が存在しない”については、そもそも時間の流れが現実世界とは違うという意味だ。夢の中で長い時を過ごしたつもりでも、目が覚めたらごく短時間だったというのはよくある話である
それらの結論は、分岐した世界に対して何らかの見識があるらしいエリゼと、暇さえあれば昼寝をするというフィーの推論から導き出されたものだった。
「色々とご迷惑をお掛けしたようで申し訳ないです……」
全員で帰還したアークライド解決事務所。皆の前で、ティオ・プラトーはぺこりと頭を下げた。
MWLエリアを創造した夢の主格者。願いに囚われてしまったことは、彼女に非があるわけではない。
囚われからの解放後は意識の混濁があったが、それもすでに収まり、《ロア=ヘルヘイム》に来てからの経緯は思い出せているという。ただし他のリベール、エレボニア、クロスベル勢と一緒で、呼び込まれる直前の記憶は曖昧だそうだが。
ティオは最初、カジノエリアにいた。カジノに興味のなかった彼女は、別室の小型スクリーンで映画を視聴していたらしい。
その映画こそ《長靴をはいたみっしぃ》だったわけだ。
ここで手記の⑭番が関係してくる。過去、現在、未来が圧縮されているからこそ、ティオは自身にとって未来であるはずの映画タイトルを観ることができたのだろう。
しかしながら期待をマイナス方向に全力でぶっちぎったその展開は、彼女に深い悲しみを与えた。そして心の防壁が決壊した瞬間、みっしぃとの思い出の心象風景が具現。
身を苛む悲哀を投影したがごとき青いドレスをまとい、カジノエリアを飲み込むほどに巨大なMWLエリアを創り出したのだった。
「ティオさんは悪くないわ。本当につらかったでしょうに……」
「うむ。むしろよくぞミシュラムを創造してくれた。揺るがぬ愛の成せる業であろう」
エレインとラウラは、ティオのフォローに余念がない。みっしぃ愛好者の絆だ。
そしてカジノ、ミシュラムに囚われていた者たちも夢から覚めた。
クロウ・アームブラスト、アッシュ・カーバイド、ランディ・オルランド、ワジ・ヘミスフィア、シャロン・クルーガー、ジン・ヴァセック、アガット・クロスナー、トヴァル・ランドナーの八名だ。
彼らは縁の深いメンバーとの再会に和みつつ、この世界と現状の説明を受けているところだった。
と、ここで例の問題が浮上する。
「ミリアムさんがいませんが……」
ミシュラムで遭遇したのにと、アルティナが言う。彼女に続きエリゼも挙手して、
「クレアさんも見当たりません。カジノでディーラーを務めていたはずです」
解放されたエリアから帰還できていない二人。街エリアのスカーレットとサラや、城エリアのエリゼと同じ現象だ。
「まだ固有の認識に囚われているんだろうな。救出隊を編成するか。どういう望みを持っているかは不明だが、できるだけ顔見知りとか、仲のいいやつらで迎えに行ってやってくれ。その方が願望を予測しやすいからな」
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