ハーメルン
黎明の軌跡 Break the Nightmare
第15話 ミストマータ

【アストライアの薔薇】

「あ、あなたはセドリックさん? まさかセドリーヌとセドリックさんって、同一人物!?」
「違うんだ、エリゼさん! これには事情があって……」
 満月の夜に女生徒が一人ずつ消えていく。そんな奇怪な謎を解明するために、女装して聖アストライア女学院に潜入すること一か月。
 学院長室の大きな鏡に秘密があると突き止めたセドリックだったが、ついに寮の同室のエリゼに正体を知られてしまった。
「そんな……私、同じ部屋で着替えとかしちゃいましたよ! そ、そ、それにお風呂も一緒に入っちゃったじゃないですか……!」
「わざとじゃない! 不可抗力なんだ! 見てないし、ちょっとしか!」
「信じられません!」
 フルスイングビンタが、セドリックの頬にくっきりと手形を残す。
 しどろもどろの説明。やっとのことでエリゼにも理解してもらえ、どうにか彼女の協力も得るに至った。
 だが次の満月の夜。鏡の中に消えてしまったのはエリゼだった。
 エリゼを救うためにセドリックは一人、夜の校舎を駆け巡る。
 学院長室へと続く薄暗い廊下に、上級生のデュバリィが立ちはだかっていた。
「デュバリィ先輩? なぜこんな時間に学校にいるんです?」
「なぜ? それはこのわたくしが鏡の使者だからですわ。さかしまの世界を統べるミラークイーンに、無垢なる魂を捧げる崇高な役割を与えられたのです」
「ミラークイーンだって……?」
 彼女は調査に乗り出すセドリックに、様々な助言を与えてきた。しかし実は敵だったのだ。
 にらみ合う二人。その時、学院長室が光り輝き、鏡の中からミラークイーンが現れた。
「我は破鏡の女王、アルフィンである。忠実なる(しもべ)、デュバリィよ。我への魂の貢ぎ、大儀であった。おかげで現界に復活することができたぞ」
「はっ、アルフィン女王。恐悦至極でございます」
「ゆえに用済みだ。貴様の魂ももらい受けるとしよう。贄となり、我が力の一部となるがいい」
「そ、そんなっ!?」
「くくく、ふはははー!」
 うちひしがれるデュバリィ先輩。尊大にあざ笑うアルフィン女王。


 物語は佳境。講堂に集まった観客たちは、皆が固唾を飲んで映画に集中している。
 そのクライマックスへと移りゆくシーンを見ながら、
「ねえねえエリゼ。わたくし、けっこうはまり役じゃないかしら。デュバリィさんもいい味出してると思わない?」
「ええ、何気に姫様は悪役が似合いますね。はあ……でもお色気シーン、どうしましょう。兄様にあとでどんな顔をすれば……」
「そこまでじゃないと思うけど。リゼットさんのカメラアングルが上手で、肌はほとんど映ってなかったもの。なんならリィンさんの目の前で再現してあげればいいじゃない」
「しませんから。それに演技とはいえ、セドリックさんの頬を平手打ちしちゃいました……リテイク込みで五回も」
「二人が目覚めてしまわないか心配だったわ」
「何にです」
 小声で話すアルフィンとエリゼ。
「そういえばセドリックとデュバリィさんの姿が見えないわね。お手洗いにしては長すぎるような」
「セドリックさんは女装もしていますので、皆さんに作品を見られるのがやはり恥ずかしいんでしょう。デュバリィさんも演技恥ずかしがっていましたし」

[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/12

[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク
携帯アクセス解析