ハーメルン
黎明の軌跡 Break the Nightmare
第2話 閃刃黎爪
撃剣
(
スタンキャリバー
)
。
マルドゥック社で開発され、データ収集を目的とした貸与という形でヴァンが扱う武器である。形状は剣であるものの刃はついておらず、その用途も殺傷ではなく制圧を主として設計された。
「これがあったところでっつー話だ!」
幻想のヘイムダルの街中で、リィン・シュバルツァーが太刀を構えている。鋭いながらもこちらの全体を
俯瞰
(
ふかん
)
していると思える眼差しは遠山の目付けという――いや、それは東方武術の呼称であって、八葉一刀流では観の目と呼ばれるものだったか。
カルバード人であっても、むしろカルバード人だからか、あの青年の顔と名前は知っている。経歴もだ。
帝国宰相ギリアス・オズボーンの暗殺
未遂
(
・・
)
に端を発する、後に十月戦役と名付けられたエレボニアの内戦。その争いにおいて士官学院生の身でありながら、巨大な騎士人形を操って戦場を駆け抜け、終戦への足掛かりを作った人物。
さらには在学中にクロスベルの臨時武官としても活躍。内戦終結直後の混乱に乗じて進攻を開始したカルバードの空挺部隊を幾度となく撃退。続く北方戦役にも参戦している。
わけても彼を決定的に有名にしたのは、二年前のカルバードとエレボニアの全面戦争である《ヨルムンガンド戦役》だ。
事の顛末としては、エレボニア皇帝の殺害を企てた銃撃事件がカルバード共和国による陰謀でなかったことが発表され、帝国側の全部隊が即時撤退するという終息を迎えたわけだが――《千の陽炎》側についていた自分は知っている。
実際はその裏でリィン・シュバルツァーを中心とした協力者たちが、事態の元凶を討つべく動いていたことを。
それらの真実の全ては公に語られていなくとも、大戦終結の立役者として《剣聖》の称号と共に、その名は大陸に広く知れ渡ることとなった。
「名実伴った正真正銘の英雄だ。相手が悪すぎるぜ……!」
なんであんなやつまでここにいる。フード男の言葉通りなら、このヘイムダルエリアを創り出したのが彼ということになるのか。
「いったん引くぞ。真正面からぶつかって勝てる相手じゃねえ!」
「わ、わかりました」
アニエスを連れて動くより早く、リィンが地を蹴った。弧を描くような軌道で、辺りに集まってきていた人形兵器の群れに素早く切り込むと、流れるような剣筋で片っ端から両断していく。彼の通り道を追うようにして、連鎖する爆発が紅蓮を瞬かせた。
「なんつー速さだ……!」
勢いは止まらず、燃え盛る炎を背にこちらに迫る。ヴァンはリィンの一刀をスタンキャリバーで受け止めた。甲高い剣戟が音が響く。
「……硬いな」
「話はできるらしいな、英雄殿! もう少し平和的に行きたいんだが!」
「八葉一刀流、紅葉切り」
「聞いちゃいねえ!」
捌ける手数の斬撃ではなかった。とにかく下がって回避。
このまま逃げきれる相手とは思えない。態勢の立て直しをしたいが、それも難しい。
「武器だけじゃ厳しいな。せめてあれがあれば――あ?」
コート裏のホルダーに硬い感触があった。馬鹿な。さっきまでは空だったはずだぞ。
[9]前話
[1]次
最初
最後
[5]目次
[3]栞
現在:1/9
[6]トップ
/
[8]マイページ
小説検索
/
ランキング
利用規約
/
FAQ
/
運営情報
取扱説明書
/
プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク