ハーメルン
黎明の軌跡 Break the Nightmare
第3話 幻夢の手記
「改めて、リィン・シュバルツァーと言います。ヴァンさんに、アニエスさん。それとフェリちゃんだったかな」
折り目正しい挨拶をするリィンに、ヴァンはかぶりを振って応じた。
「あー、固い口調は互いに無しで行きたい。歳は俺の方が少し上だが――ま、そんなに変わらないしな」
「私もアニエスと呼んで下さい」
「わたしだけ最初から“ちゃん”付けなのは……?」
一通り自己紹介を済ます。リィンを含めた四人は、ヘイムダルエリアからアークライド事務所エリアへと帰還していた。
「わかった。じゃあヴァンにアニエス、フェリちゃんもよろしく」
「おう。ちなみに俺はシュバルツァーって呼ぶ。馴染みが少ない相手にはファミリーネームの方がしっくりくるんでな」
「よろしくお願いします、リィンさん」
「あ、あれ、やっぱりわたしだけ……」
事務所の二階。打ち合わせ用のローテーブルを囲み、ここまでの状況の整理を行う。
「――なるほど。三人はいずれもカルバード共和国の人間。まずヴァンがフードの男の誘いで、この世界に呼び込まれたと。そしてアニエスとフェリちゃんは、アークライド解決事務所に足を踏み入れた途端に“霧”のようなものに呑まれて、気づいたらここにいた。……ということでいいのか?」
「概ねそんな感じだ。そのフード男にヘイムダルエリアを作った人間を探せと言われて、あんたと出くわしたって流れだ。で、有無を言わさず戦闘になった」
呼び込まれた時期になぜか差があるのは、話がややこしくなりそうだからいったん伏せておいた。
「それは……すまなかった」
リィンの瞳がかすかに揺らいだのを、ヴァンは見逃さなかった。今のは不慮の交戦をしたことの憂い目とは違う空気感だ。
「意外に顔に出るタイプらしいな? 俺たちがカルバード人であることは気にしなくていい。少なくとも俺は、あんたへの確執は持ち合わせちゃいない。後の二人もだ」
「……ヴァンは勘が鋭いな。そう言ってもらえるとありがたい」
「ずいぶんと謙虚な姿勢だが、いつもそうなのか? 世間一般の印象だと、戦乱を駆け抜けた英雄そのものだ。もちろん今のは帝国側の視点でのイメージではあるが」
「偶像は一人歩きするというのが最近わかってきたよ。俺はそんなに立派じゃないさ」
実質は一日で終戦したとはいえ、《ヨルムンガンド戦役》はれっきとしたエレボニアとカルバードの国家間戦争だ。しかもその顛末を端的に表すと、『うちの皇帝の暗殺未遂はカルバードの企てだと思って戦争吹っ掛けたけど、実はそうじゃなかったみたい。ごめんね?』である。
真実はそれほど単純な話ではなく、多くの人間の思惑や、水面下での複雑な計画が絡み合っていたのだが、まさかそれらを公にするわけにもいかない。
表面の結果だけを受けて、共和国側の国民感情は荒れた。エレボニアという名前だけで拒否反応を示す者もいる。たとえ天文学的な賠償金を支払われて、未曽有の好景気になったとしてもだ。
故にシュバルツァーも、俺たちカルバード人に思うところがあるのだろう。彼に罪があるわけでもなく、むしろ騒乱を収めた立役者だというのに。
「さて、話を本筋に戻すぜ。次は
こいつ
(
・・・
)
だ」
《幻夢の手記》と題された黒い手帳をテーブルの上に置く。革張りの表紙に、見たことのない紋様と金刺繍の文字。高級感のある手帳だ。リィンとの戦闘後に空から舞い降りてきたものだ。
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