ハーメルン
黎明の軌跡 Break the Nightmare
第9話 駆け抜けてアップサイドダウン!
倒壊したカジノフロア。
その跡地では散乱する瓦礫に紛れて尚、どこからか引っ張ってきたテーブルを囲んで、ランディーたちフロアマスターがトランプを広げていた。
「……まるで周囲の状況を気にしてない。あれが夢に囚われているってことなの?」
慌てるわけでも、逃げ出すわけでもない。異様な光景を眺めながら、エレイン・オークレールが訊いてくる。
「そうだ。本人の主観が世界の全てになるらしい」
《幻夢の手記》をめくりながらヴァンは答える。これは⑦番の項目だ。
この主観というのが厄介で、たとえばランディたちのように周りがどうなろうとまるで反応しない人間や、リィンのように別のものを見ていた人間、スカーレットのように特定の人物だけを認識した人間や、フィー、ラウラのように普通にこちらを認識して会話ができた人間など、様々だった。
しかし彼らに共通していたのは、自身の置かれた境遇にまったく疑問を抱いていなかったことか。まさしく夢の中にいるのと同じような感覚なのだろう。
「それにしてもなんで記憶の拡張が起こらねえんだ? エレインは絶対カルバード組だろ。何かの法則が違うのか……?」
「その手記にこの世界のルールが書いてあるの? ちょっと見せて」
「あ、おい」
エレインはヴァンの手から《幻夢の手記》を取った。
「……⑩番が“ヴァンが仲間と合流する度に、記憶の拡張が起こる”で、⑫番が“記憶の拡張域はヴァンが仲間を現実世界でアークライド事務所に雇用するまで”ね。……じゃあ私、この抜けてる⑪番わかるわよ」
「なに?」
「この並びなら⑪番は“仲間”という言葉の定義よ。それが記されていないと条項があやふやになる。いいかしら? あなたの仲間と認定されるのは“あなたが直接雇い、契約書にサインをさせた者”よ」
エレインが告げた瞬間、開いていたページが光った。
⑪【ヴァン・アークライドの仲間と認知されるものは、現実世界でヴァン・アークライドと雇用関係を結んだ者である】
「ね? ⑫番にヒントもあるし、というか⑫番が開示された時点でセットで思いつきなさいよ」
「ぐっ」
「あともう一つ。⑩⑪⑫の意味を逆に読み解くと、私がここでヴァンに出会っているのに記憶の拡張とやらがなされないのは、私はあなたに雇用されていないから――つまり定義上の仲間ではないからということになるわ。けれど仲間でなくても、あなたと関係のある人間はこの世界に呼び込まれる可能性があるということでもある。これは重要よ」
⑬【ヴァン・アークライドと雇用関係になくとも、現実世界の縁で繋がれた者であれば《ロア=ヘルヘイム》に召喚されることがある。ただしその場合は仲間ではなく同行者と認知され、記憶の拡張には至らない】
続けて輝き、浮かび上がる文字。
「はい。どうぞ」
「ぐぬっ」
澄ました顔で《幻夢の手記》を返してくる。
くそ、なんだコイツ。《ロア=ヘルヘイム》のことなんざ、つい今しがた簡単な説明をしただけなのに、チラ見しただけの情報をつなぎ合わせて、さっそく二つの情報を開示させやがった。
「あら、悔しいのかしら?」
「んなわけねーだろ。ほら、さっさと行くぞ!」
口元を緩めて顔をのぞき込んできたエレインから目をそらし、ヴァンはミシュラムワンダーランドの正面ゲートをくぐる。
他の連中はいくつかのチームに分かれて、すでにMWLエリアの探索に当たっている。俺はエレインと顔見知りってことで、半ば強制的にペアを組まされたわけだ。周りから妙な気を遣われた気がしないでもない。何やらもの言いたげだったアニエスの視線は、じとっと湿度を帯びていたようにも思う。なんなんだよ。
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