前触れ
一年にあそこまで啖呵を切ったのだ。二年が成長しなければメンツが保てない。
反転術式。一足先に憂太が習得し、家入さんと同じくアウトプット出来るようにすらなっていたのは中々驚きだった。
フライパン返しのようにひゅーん、ひょい。ウィンガーディアム・レヴィオーサかよ。
現状一切役に立っていない家入さんのアドバイスにそんな文句をぶつくさ言いながら、コインを裏返す様なイメージを持たせて何度も身体に呪力を流す。
なんでも大抵の事はこなせていたからか、出来ない自分に対して苛立つ。
「道具の持ち運びかぁ。」
パンダの気の抜けた声が聞こえる。
「禪院先輩は……」
「私は巡が居るからな。」
真希の視線を感じたから、一旦練習を辞めて皆の方へと体を向ける。多少の汗と喉の乾きを感じたので、実演にはちょうど良いと眼を万華鏡に切り替える。
ぎゅるり。空間がねじ曲がりタオルとペットボトルに入ったお茶が巡の手元に落ちてくる。ついでに2本、三本と地面に突き立てるようにして呪具を倉庫から放出して行く。
「俺は例外。術式拡張でもなんでも無くこの目の固有能力になるからな。真希の呪具も一通りは入っている。単独任務の時は一つで大体は済むようにメイン武器として特級呪具を持たせているが、基本的には2本は手持ちだろうな。」
瓢摩に、遊雲。どちらも1本で大抵の呪霊なら事足りる規格外のモノ。それらが眼の能力による異空間に収納されている。真希は気分によって使い分けていたりする。
真希は片手で大刀や薙刀を全力で振り回したところでなんの支障も無い程度のフィジカルを持っている。だからこそ、こなせる事である。両手を開ける前提ならばこの回答だけでは足りない。
「影の中に倉庫は作れるか?ノーリスクでは無理だろうが拡張術式の範囲内だと思うけどな。」
「ちょっと、やってみます。」
恵が影を掌の下に作りそれを維持。そのまま手を入れるような動作をすれば地面に指先が沈んでいた。
「何とかなるかもしれません。」
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「じゃ、行ってくるね。ぱっぱと片してくるからゆっくり待っててよ。」
「うっス。気をつけてくれッすよ?今日は一級案件なんですから。」
補助監督は新田明。説明された今回の祓う対象は田舎の地縛霊だ。一種の土地神になって呪いを振り撒いてしまった肥大化した呪い。
軽く手を上げて返事をすれば、もう道ですらない山奥にわけ行って入って行く。既に帳は下ろされているので、瞳を闇夜でも良く輝く紅へ変える。
目指すは壊れかけた社だ。呪力を視る眼は濃ゆい瘴気の様な呪いの塊を確りと捉えている。そして何故か少し離れた場所にある懐かしい気配も。例えるならば田舎の裏山で対面していたモノ達。
呪術師として活動し始めてからあの山がどれだけ異質な場所だったかがよく分かった。澱んだ雰囲気など無く、姿形も自然の動物をしっかりそのまま形創ったモノ達だった。故に対面していてもストレス等は感じず、言ってしまえば稽古をつけてもらったような清々しい気持ちになっていたもの。断じて呪を吐き続ける化生などでは無かった。
膨れた顔にボロボロの袈裟、腐りかけの坊主頭。即身仏になり切れなかった僧侶の成れの果て。口からはお経と共にこの世への怨みや言葉に為らぬナニカがとうとうと吐き出されて行く。
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