12話 延長戦です
後半戦は終わり、延長戦がはじまるも私の役目は終わっている。
弔くんの恋する乙女みたいな真っ黒い憎悪は、今やオールマイトに一途に向けられている。
狩人として、モヤモヤの人と弔くんを狩ってあげたいけど、時間切れには素直に従います。ここは悪夢では無く現実で、だからこその狩りの形がある。
(……でも。“善”の私は、狩りが下手みたいです)
場に流されて、標的を全く狙えなかった。
少しだけショックですが、それほど悲観はしていません。現実の獣を、現実の狩人ことヒーローが狩るのならそれはそれで良しです。梅雨ちゃんにぷかぷか身を任せながら、そう自分を慰めます。
「ヒミコちゃん……しっかりして……!」
ところで、どうして梅雨ちゃんは涙声なんです?
返事をしてあげたいけど、眠すぎて呻くのもだるいです。
「ごめんなさい……助けてくれて、ありがとう」
「……」
「お願い、目をあけて、ヒミコちゃん……っ」
「……」
今さらですが、梅雨ちゃんの私を呼ぶ声というか響きが、年下に向ける感じです?
まるで、幼子に語り掛ける様で、幼稚園の先生が子供たちを呼ぶような、そういう慈しみが込められている気がします。あと、梅雨ちゃんが何に謝っているのか分からなくて、困ります。
(……ありがとう、だけでいいのです)
謝られるのは、何かを失敗したみたいで不安になる。
かろうじて、梅雨ちゃんに触れる指に力をいれて、気にしないでと伝えるも、意識が軽く飛んでいる。
(血を、流しすぎました)
脳無の血で少し回復しましたが……現実の血はダメですね。
浴びるのではなく、飲まないとあまり回復しない様です。……まあ、傷口からはたくさんいただいたので、ストックはできました。今度弔くんを見習って嫌がらせしてやります。
そんな事を考えていると、急激に水への重みを感じて息が詰まる。陸についたらしく、引きずる様に梅雨ちゃんの細腕に引っ張られる。
「……ぅ」
流石に、ここからは梅雨ちゃんに甘えられない。
眠気を追い払おうと小さく呻いて「! ヒミコちゃん」梅雨ちゃんがハッと私に声をかける。それと同時に「トガちゃん!」ふわりと、温かい感触が頬に触れる。
え。
「! 透ちゃん、いるのね」
「うんっ、一緒にトガちゃんを連れて行こう!」
は、葉隠ちゃん?
こんなところにいたら危ないですよ!?
焦りに、指先が動く。
オールマイトと脳無が戦う音が届いていますし、少し距離があると言っても、あの人達にこの距離はあってない様なもので、心配のしすぎで眠気が薄れていく。
「……っ、おさえても、血が止まらない」
「……ええ。水に浸かったのも悪かったわ。………急いで運びましょう」
「うん……そうだ、トガちゃんのコート、羽織らせてもいいかな?」
「そうね。少しでも体温を維持しないと。マントは脱がせましょう。傷には触れない様に……」
介護です?
2人のクラスメイトに甲斐甲斐しくマントとベストを脱がされ、コートを羽織らされてしまう。更には過剰なほど丁寧に運ばれてしまう。
(……あったかいです)
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