30 腕の中にある命!
ソフィアは笑顔で個室から出ようとしたが、すぐにぴたりと足を止める。
なにか、変な臭いがする、トイレの臭いではない。それよりももっと鼻を突き指すような酷い悪臭だ。
ちらりと個室から顔を出したソフィアは、その先にいる巨大なトロールを見て表情をこわばらせた。
あれは、トロール?ハロウィーンの余興?いや、まさか、そんな──。
今はまだ此処に自分達がいる事に気づいてはいない、だけど、これ以上奥に来られると見えてしまう。
いきなりのトロールとの遭遇にソフィアが混乱していると、急に足を止めた事に不思議に思ったハーマイオニーがひょこりと扉の向こうから顔を覗かせた。
「キャアーーー!!」
「──っ!」
ハーマイオニーは恐怖で甲高い悲鳴をあげる、その声に気が付いたトロールがゴツゴツとした棍棒を引き摺りながら、2人の元へと近付き、棍棒を持つ腕を振り翳した。
「ハーマイオニー!!」
ソフィアは恐怖から動けないハーマイオニーの上に覆いかぶさるようにしてその場に倒れ込む、その少し上をトロールの棍棒が通過し、トイレの個室は飴細工のように粉々に砕け散った。
背中に木の破片が散らばるのを感じ、これを食らったらひとたまりも無いと表情を青ざめ、ソフィアはハーマイオニーの腕を強く引き引きずるようにしてその場から這い出した。トロールの足元を通過し、洗面台の下に逃げ込む。が、トロールは愚鈍な動きで振り返るとすぐに洗面台を破壊するべくまた手を振り上げる。入り口に行かなければならない、だが、一度2人を獲物と捉えたトロールはけして2人を逃さなかった。
「ハーマイオニー!私が注意を引くから、逃げて!」
「で、でも!そんな、それじゃあソフィアは!?」
「大丈夫、私は変身術の使い手よ!── 変身せよ!」
ソフィアは破壊された個室の木片に杖を振るった。木片は鋭い小刀へと形を変える。すぐにソフィアはもう一度その複数の小刀に魔法をかける。
「──襲え!」
小刀はソフィアの号令に従い浮遊するとトロールの元へと突き進む。それは小さな小刀で、トロールの分厚い皮膚を切り裂くことは叶わなかったが、トロールの気引くには十分だった。
トロールは顔の周りを飛び交う小刀達を鬱陶しそうに手で払い除ける。
「ハーマイオニー!今よ!」
ハーマイオニーはトロールの足元を這うように通り抜け、何とか閉められた扉まで進む。
早く扉を開けようと駆け寄ろうとした瞬間、外から物凄い勢いで扉は破壊され、ハーマイオニーはもう一体トロールが来たのかと悲鳴を上げた。
「キャアアア!?」
「ハーマイオニー!?ソフィアは!?」
「ル、ルイス!?」
ルイスはハーマイオニーをすぐに後ろに押しやる、そしてトロールの向こう側でこちらを唖然と見るソフィアを見つけた。
「ルイス!?それに、ハリー!ロンまで?!」
ソフィアもまた、急に現れたルイスとその後続いて飛び込んできたハリーとロンに驚き、一瞬トロールから目を離してしまった。小刀達もまた速度を緩め、トロールはぎろりとソフィアを見ると、棍棒を薙ぐようにしてソフィアを襲った。
[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/6
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク