392 襲撃!
ソフィアはフレッドとジョージと面白おかしく踊っていたが、ダンスフロアから離れるハーマイオニーを見て彼らと繋いでいた手を放した。
「ありがとうフレッド、ジョージ!ちょっと休憩してくるわね」
「オッケー。じゃあ俺たちは──」
「次はあの女の子と踊ろうかな」
フレッドとジョージが指差したのは楽しげに揺れるカップル達を羨ましそうに見ているフラーの従姉妹たちだ。英語があまり得意ではない彼女たちは、その美貌ゆえにチラチラと盗み見ている男は多いのだが「我こそは」と自信を持って声をかけないのは──果敢にも声をかけたものの、言葉が通じず気まずい沈黙が流れ情けない顔で去っていく男たちを見ていたからだろう。
しかし、フレッドとジョージは言葉がわからずとも彼女達を十分に楽しませることができる、と自信を持っていた。
いくつか店の悪戯グッズを見せればきっと誰だって笑顔になるだろう。──外国の客を引き込むきっかけになるかも知れない。
商品を口コミで広げるため、そしてもちろん美しい女性と一時の甘い夢を見るために、二人は激しく踊ったせいで歪んだネクタイを整え、疲れを感じさせない爽やかな笑顔で女性達の元へと向かった。
ハーマイオニーはウェイターが配る甘いカクテルが入った細いグラスを手に取ると一気に飲み干し、ふう、と一息つきながら手で顔を仰いだ。
「ハーマイオニー、ロンとはもう踊らないの?」
「ええ、もう足の裏が痛くって……」
「まぁ。私に掴まって?」
ソフィアは立っているのも辛そうなハーマイオニーの腕を掴み、支えた。ハーマイオニーは申し訳なさそうにしたが、足の痛みには耐えられないのかソフィアに体重を預ける。
「楽しかった?」
「それは──ええ、勿論」
「今回は踊れてよかったわね」
弾むように上げられた語尾に、ハーマイオニーは頬を染めながらこくりと小さく頷いた。2年前は踊ることはできなかった。しかし、今──ロンと踊ることができて、こんなにも心が満たされ、胸が緩く締め付けられるようになるのだと初めて知った。
嬉しそうなハーマイオニーに、ソフィアは眩しそうに目を細める。
──なんて、美しいのかしら。こんな顔をさせる事ができるなんて……少し、ロンに嫉妬してしまうわね。
去年、ソフィアとハリーが恋人になった時にハーマイオニーが感じたような甘くて苦い気持ちになりながら、ソフィアは近くに空いている椅子はないだろうか、とゆっくりと人の間を通り抜け辺りを見回した。
「あ、ほら。あそこにちょうど椅子が二脚あるし、ハ──バーニーもいるわ」
「うう、足の裏の感覚が無いわ……」
ソフィアは杖を振りハリーの隣に空いている椅子を二脚引き寄せ、一脚にハーマイオニーを座らせた。途端、ハーマイオニーは靴を片方脱ぎ足の裏を痛そうにさすり出す。
「何か飲み物とか、食べ物でも持って──」
ソフィアはウェイターを探していたが、ふと隣にいるハリーの顔色が悪く目が動揺と困惑で揺れている事に気づき言葉を止めた。
「顔色が悪いわ。大丈夫?」
ハリーの目の前にしゃがみ込み下から見上げれば、ハリーは初めてソフィアがここにいた事に気付いたのか驚き目を見開いた。このテントの中は暑いほどの熱気で満たされているというのに、膝の上で硬く握られた手は白くて凍えるように冷たい。
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