第五章・裏:鬼の子
「――これが、君があのセイバーを殴り飛ばした時の、バイタルだ」
先に出されていた、マスターの平常時のそれを比べると。差異は、明らかでした。
けれどそれを見てマスターは……少し、困ったように。頭を掻いているばかり。まるでそれが他人事であるかのように。
「すっげぇなぁ。人間ってこんなに変化できるんだなぁ。ビックリ人間に出場できっかな」
「本造院君……心当たりは、無いのかい」
そんなマスターとは違い、ロマニ様は酷く真剣で。そして……その視線に少したじろいだ様子でつるりとした頭を撫でて、手元の紙に、マスターは目線を向けました。話半分で聞いてくれ、と前置きをした後に。
「……我が家は、随分と古い家系でね。平安時代よりも前から続く家系なんだって。つっても古いだけで伝統の名家とか、そう言う事は一切ないんだけども」
「千年近く、続く家。そりゃあまた」
「そ。ビックリするでしょ? 旧さだけならぶっちぎり。それ以外誇れないけど」
ご自身の家の事なのに、マスターは、酷く饒舌に、そして自虐的に話している。その様子はおどけているようにも見えますが……私には、少なくとも楽し気、という風には感じませんでした。
口を釣り上げて、表情は笑っている様にも見えます。が、その眉間に寄っているのは、笑顔の皺ではなく、怒りのそれのように思えました。
「で、我が家の親戚が、揃いも揃って代々、本気で信じてるクソッたれた言い伝えがあって」
「代々? え、それは千年もずっとって事かい?」
「そ。馬鹿みたいにずーっとだ」
「いやぁなんというか……すごい執念だね」
「正直、もう凄いって言うか、それ以外言葉が無いって言うか。だって信じられるか? 別に良い格の家って訳でもないのに古くからの言い伝えを馬鹿正直にさ……ああいや、これは別に関係ないか。悪い」
そして、皺は直ぐにほどけ、次に浮かんで来たのは。今度は、確かに笑顔でした。しかしそれは良い笑顔、ではなく。誰かを下に見た、嘲りの表情。
私も朝廷でよく目にした……そんな。
「で、その言い伝え、というのは」
「――むかーしむかし。ある所に住んでいた女が、悪い鬼に見初められて種付け〇イプされて快楽堕ちしてアへ顔ダブルピースから子供を産んだ。その子供って言うのが、俺達の御先祖様なんだと」
……その直後に飛び出した言葉に、室内が凍ってしまいました。
一応、私とマスター、そしてロマニ様以外には、誰も居ませんがしかし。その少人数であっても、空気を悪化させるのに余りにも十分な単語が、マスターの口からスラスラと。私顔が赤くなっていないでしょうか……
いえ。それよりも……今マスターは、間違いなく、鬼、と。
「鬼の、子」
「みたいねぇ」
「え、えっと。その」
「いいよ。俺も同じような事思ったし」
「マスター、その……その言い伝えは、何時」
「初めて聞かされたのは……小学生になるか、ならないかくらいの頃だったっけ。婆ちゃんが誇らしげに話して下さった」
マスターは、分かりやすく……ちょっと分かりやす過ぎる位に話してくださいましたが。
「しかも、その女がどう過ごして、どういう風に鬼に見初められて。んでもってどんな感じに股座に――」
「分かった、分かった……あの、それくらいにして……お願い……」
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