転属
古代は加藤から報告の有った女性と顔が一致する事に気付き、声を掛ける。
「おっ、君、山本じゃないか?エンケラドゥスでゼロに乗ったっていう。あの時は助かったよ。ありがとう」
「いえ、自分は最善だと思う行動をしただけです」
双方共にパイロットの資格を有し、同じ機体に乗った事も有って会話が弾む。コスモゼロの機体の癖、性能、乗ってみた感想、搭載兵装について等、話題が尽きる事は無い。
だが、古代は全く気付いていないが、山本との会話が長引くにつれ、森の機嫌がどんどんと悪くなっていく。目的階につく頃には噴火寸前で、扉が開いた瞬間に出て行ってしまった。
「……何か怒らせるような事言ったかな」
森が硬い足音を鳴らしながら去っていく姿を見ながら、古代は首を傾げた。すると、山本が意を決した様な目で古代を見て「此の後、お時間よろしいでしょうか?」と言った。
「ん?あぁ、構わないよ」
古代としても彼女を引き抜く話が出来るので問題無いと告げた。第一艦橋等でする話でもないし、自室で話すのも問題なので後部観測室へ向かう。此の時間帯なら大体の場合、シフトの関係で誰も居ないので話すには一番もってこいの場所だ。
「で、何か用かい?」
「……私を、航空隊に転属させて下さい」
「えっ……」
自分が言おうと思っていた事を先に言われ、古代は面食らう。
「……駄目でしょうか?」
面食らって沈黙したのを、山本は別の意味に捉えたようだった。古代は此の絶好の機会を逃すまいと、山本が次の言葉を発する前に慌てて口を開く。
「否、駄目ではないよ。君みたいな腕の良いパイロットが来てくれるなら、百人力だ。とは言っても俺の一存では決められないから、艦長や航空隊隊長、主計長と話し合う必要があるけどね」
古代が山本を航空隊に引き抜くという事は、主計科から一人、欠員が出るという事だ。軍艦は戦闘である程度の欠員が出る事を想定してるので、一人欠けたからと言っていきなり機能不全になる訳では無い。
それでも、一人居なくなれば其の分の仕事が他の者に皺寄せとして行く事は確実だし、其の所為で不平や不満の類が生まれる事も想像に難くない。そういった事を極力小さく抑える為に、事前の話し合いが必ず必要だ。
「是非、お願いします」
若干前のめりになり、飛び掛かって来そうにすら見える山本。加藤からエンケラドゥスでの事を報告された際、航空隊への配属を蹴ったのは加藤だと聞いた。其処に何か事情がある事は察せたので聞かなかったが、本人が此処迄、転属を希望しているのなら事情についても知る必要が有る。とは言っても山本に直接聞けば山本と加藤の間に軋轢が生まれてしまう可能性も有るので、話し合いの際に加藤に聞くのがベストだろう、と古代は判断した。
「分かった。結果が決り次第、連絡するよ」
「ありがとうございます!!」
山本が深々と頭を下げる。古代は山本と別れた後、直ぐに沖田、加藤、平田に声を掛け、山本を航空隊に転属させたい旨を打診した。
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