ハーメルン
宇宙戦艦ヤマト2199改
火星

「ここに落とされて三週間か……メ号作戦は成功したのかな?」

「冥王星では兄さんが戦っているっていうのに……こっちはこんな所で……」

 火星アルカディアポート跡に仮設された気密テントの中で、一等宙尉の島大介が同期で親友の古代進にぼやいた。だが、古代は其の言葉に応えず、テントの側壁に有る小さな窓から冥王星の方角を見て、悔しそうに顔を歪めている。彼等が此の地へ赴く事になったのは約一カ月程前の事だった。急な二階級特進と共に火星へ行けという命令が出た時は、流石に二人共が困惑した。其れ迄、ヤマト計画の実行の為にずっと特殊訓練を受けて来たのに、どうして此処で、今は何も無い火星へ、と。だが、上官の言葉を聞いて納得した。

「ヤマト計画実行の為に必要な最後のピース、波動コアをイスカンダルの方が運んで来て下さる。其の方を出迎え、共に地球へ帰還するのだ」

イスカンダル。
 ガミラスとの戦争で滅亡の危機に瀕している地球に救いの手を差し伸べてくれた、大マゼラン星雲に有る星の名だ。一年程前に其の星の女性一人が小型の宇宙艇で火星へ飛来し、当時はまだ残存していた火星駐留の国連軍と接触、人類に光速を越える事の出来るエンジンの設計図を与えてくれた。今迄の地球製エンジンとは比較にならない高出力に、当時の国連軍は狂喜乱舞した。
 だが、其れは長く続かなかった。エンジンの設計図を渡したイスカンダル人は続けてこう言ったのだ。それは戦闘に使う為の物では無く、16万8千光年離れたイスカンダルへと来る為の物だ、と。其れ以外の目的の為に利用する事は許さない、と言われると立場的にも科学力的にも遥かに下な地球は従わざるを得なかった。
 其処で国連軍は密かに進めていた地球脱出の為のイズモ計画を破棄し、同計画に於いて脱出船団の護衛役を務める事になっていた戦艦3隻に其のエンジンを搭載、イスカンダルへ派遣する事を決定した。とは言っても、一番艦であり、計画の名の由来にもなっているヤマトは兎も角、二番艦ムサシ、三番艦シナノの建造作業は連日の惑星間超長距離爆撃で遅れに遅れており、計画には間に合いそうもない状態になっているが。

「はい!!……了解!!」

 島の真剣な声を聞き、古代は後ろへ振り返る。すると眼前には自分の青いヘルメットが迫って来ていた。

「おっ……」

「出番だぞ」

 どうやら相手が来たらしい。二人の内、小型機の操縦に長けているのは古代の方だ。必然的に、二人に用意された百式空間偵察機のパイロットを務める事になる。
 島も其れに異存は無い様で、出番だぞとだけ言うと外に出て、機の後部座席へと潜り込んでいる。古代もやや遅れて前の操縦席に潜り込むと、離陸前に何時も行っているルーチンを迅速且つ的確に処理し始める。機体は甲高い音を奏で始め、良好な状態である事を二人に知らせた。

「行くぞ、島!!」

 古代が操縦桿を操作すると、機体はスムーズに飛び上がった。火星の表面は幾度もの戦闘で荒れ果てているが、古代は難無く乗り越えている。スキッドがあるとはいえこれ程の操縦が出来るのなら、パイロットになっても良かったのにと島は思った。
 機体は島の誘導の元、極冠付近へと飛ぶ。やがて、レーダーが飛行物体を捉え、直ぐにUNKNOWNという表示を添えた。見上げて空の隅から隅まで探すと、確かにそれらしい物が小さく、本当に小さく彼方に見えた。

「あれか……」

[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/2

[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク
携帯アクセス解析