ハーメルン
後方師匠面の転生者に『功夫が足りん!!』と言われ続けた噛ませ犬がバグった話
功夫之弐

 

 フィルが八極拳の功夫を積み重ね始めてはや数年。彼の実力はそれまでの停滞が嘘の様に伸びており、並の人間ならば太刀打ち出来ないほどの力を付けていた。

 「––––破ッ!!」

 そんな掛け声と共に背中全面を使用した体当たり、『鉄山靠(てつざんこう)』が秘密の鍛錬場に生えている巨木へ放たれ、ドンッ!!と言う酷く重い衝撃音と共に根本から巨木が引っこ抜かれる。

 メキメキと音を立てながら倒れて行く巨木を見ながらフィルは深く息を吐いて気を落ち着けつつ、針金細工の様に鍛えられ始めた身体の汗を拭き、彼は鷹の様な鋭い目を自分の師へと向ける。


 「魔力も使わずにやってやったぞ? これで俺も一流で良いだろ?」

 「いいや、まだ功夫が足りん!!」

 「……何が足りないって言うんだよ」


 数年間の功夫。フィルの人生の中で他に打ち込む事は何も無いと言わんばかりに八極拳に没頭し、周りとの確執も一切気にならなくなっていたが、この腹が立つ師匠は一向に実力を認めず『功夫が足りん』の一言。

 自分が薙ぎ倒した巨木に腰を下ろしつつ、そろそろ基礎訓練から脱却したいと考えるフィルは責める様な視線を彼に向ける。

 年々積み重なって行く自身の功夫、それが彼のラント家内での劣等感を払拭しつつ、自信を付けさせる事になったのだが、性格の矯正が上手くいかなかったらしく、未だに家族間との溝は埋まっていない。

 その苛立ちを発散する為にまた功夫へと打ち込み……それを繰り返していた為、基礎以外の秘伝を教えて貰いたいと言う思いがフィルの中で燻っていた。

 が、そんな思いなぞつゆ知らず。後方師匠面の転生者は『強くなっても所詮噛ませ』と言う先入観が入っている為か、まともに取り合う事は無い。あくまで彼は『後方師匠面がしたいだけ』なので、それも当然なのだが……問題は此処から。

 ––––此処で彼がフィルにとって満足できる内容の言葉を()()()()()()()()、フィルは強キャラ止まりだった。が、この余計な一言が強キャラをバグキャラへと変貌させてしまう。

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