第19話:シューター、忌まわしき記憶
BAR・FUJINOには時折変わった客がやって来ることがしばしばある。変わった趣向の客、変わった格好の客、中にはどこで噂を聞き付けたのか最初から瑠璃とルーレット対決をする為にやって来るような変わり種など色々だ。
そんな変わった客にも顔色一つ変えずに対応してきた瑠璃であったが、この日の客は少し驚かされた。
「いらっしゃ……あら?」
その日店に訪れたのは、何とフランシスだったのだ。それもお供を誰1人引き連れず、自分1人でやって来た。
「よぉ……」
彼の姿を見るなりネイトは即座に警戒を露にしたが、予想に反してフランシスは落ち着いた様子で軽く手を上げるだけでそれ以上のアクションを起こさなかった。
今までにない彼の反応に瑠璃とネイトがちょっと対応に困っていると、2人よりも先に海羽が動きフランシスをカウンター席の端に案内した。
「いらっしゃいませ! こちらへどうぞ」
「あぁ、すまんねお嬢ちゃん」
海羽に促されカウンターの端へ座るフランシスは、とても落ち着いておりとても前々から瑠璃のリールドライバーを狙ってきた一味の頭領とは思えない。
そんな彼にも、海羽は構わず接客した。
「ご注文はお決まりですか?」
「ん~、まずはビールと、軽く摘まめるものを貰おうか」
「かしこまりました!」
恐らく海羽があそこまで平然としていられるのは、何だかんだで彼の弟分であるバーツと親しいからだろう。バーツと仲が良いから、彼の兄貴分であるフランシスやエドワードも自然と気を許しているのだ。
以前の事もあってただの悪党とは違うことは分かっている筈なのに、顔を見た瞬間まず警戒してしまった自分達との違いに瑠璃は海羽の成長を感じ何だか嬉しくなった。尤も同時に寂しさと自分への情けなさも感じずにはいられなかったが。
海羽が一足先に歩み寄っているのだから、自分も彼に少しでも歩み寄らなければ彼女の姉貴分は名乗れないと、瑠璃は軽く自分の頬を叩いて気合を入れ直すとフランシスに注文のビールと摘みの野菜スティックを持って近付いた。
「お待たせしました。ビールとお摘みの野菜スティックです」
「お、どうも」
「……それで、今日は何の御用で?」
フランシスがビールを受け取り、一口で半分ほどを飲み干した辺りを見計らって瑠璃は鉄平や他の客に聞こえない程度の声でフランシスに訊ねた。まさかただ飲みたいから来た、などと言う可愛らしい理由ではないだろう事は容易に想像できる。
それとは別に、瑠璃は海羽がこの場所に彼を案内した理由に気付いた。彼女は瑠璃やネイトがフランシスに話を聞きに行くだろう事を予想して、彼をこの席に案内したのだ。ここなら場所の都合上、声を少し落とせば鉄平や他の客に会話が聞かれる事はない。海羽の気配りに瑠璃は思わず舌を巻いた。
「ん? あぁ……その、何だ? まぁあれだ、バーツの奴が世話になったな。その事で、ちょいと礼をしておきたくてな。ありがとう」
そう言って頭を下げてくるフランシスに、瑠璃は一瞬目を丸くしたが直後に笑みと共に肩から力を抜いた。
「そんなの、ウチだって海羽ちゃんを守ってもらったんだもの。御相子よ。それに渋るあの子を引き留めたのも海羽ちゃんよ。お礼ならあの子に言ってあげて」
「そうか……分かったよ」
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