ハーメルン
この素晴らしい世界に呪術を!
2話

 と、言うのが数ヵ月前の事だ。
 冬を越すために保存食をめぐみん家に届けてやり、お互いにテレポート代を稼ぐためにアルバイトをする事に奮闘した結果、私の方は問題無く三十万エリスが貯まった。
 主に保存食を雑貨屋に卸した事での収入だったが、最近手持無沙汰で魔王軍の装備を溶かしてインゴットにしたものがそれなりの値段で売れてしまったので実は二人分の代金を確保できてしまっていたのだった。
 結構良い装備してるじゃないか魔王軍。
 機会があればもっとちょろまかして溶かしてやろうと決意した。
 めぐみんはあれから私の渡した保存食で食い繋いでいるらしく小屋に訪れていない。どうにも資金が貯まるまでは会う事は無いだろう的な捨て台詞を放っていたので、それを有言実行すべく頑張っているらしい。

「にしても、最近やけに夜中に爆裂魔法の轟音がするのはもしや……」

 近頃ゆんゆんと一緒にモンスターに追われる騒動に巻き込まれたらしく、その時に爆裂魔法を習得する事が出来たらしいと姉の代わりに訪ねてくるようになったこめっこから聞き及んでいる。
 あれだけ爆裂魔法を褒め称えていためぐみんだ。ある程度家に帰りやすく、尚且つバレなさそうな山奥で爆裂魔法をぶっ放している可能性は非常に高い。
 やれやれと肩を竦め、暴れ猪の肉を鉄板で豪快に焼いていく。じゅわじゅわと分厚い脂身から溶け出した旨味が良い感じに猪肉に絡んでいく。
 岩塩と黒胡椒に似た実を振りかけて味付けし、お手製の麦パンを竈から取り出して皿に盛り付ける。地下に作った氷蔵庫に暴れ猪の肉はまだまだあるので大盤振る舞いだ。
 そろそろめぐみんも三十万エリスを貯め終えた頃だろうし。
 ……流石に貯めたよな? でもなぁめぐみんだしなぁ……。
 めぐみんは持ち前の魔力量はしっかりあるし、ふにふらと言うクラスメイトの弟のために病気に効くポーションを調合した事もあると聞いていたので割かし給金の良いバイトに就けているならそれぐらいは貯まっている筈だ。
 日常品が幾つか切れかけているし、里に向かうついでに様子を見に行くか。思い立ったが吉日と言わんばかりに食事を終えた私は歯磨きをしてから身だしなみを整えて外に繰り出した。冬が明けて寒さと温かさの間にある気温で比較的過ごしやすい。里への道は一本道であるため迷う必要も無い。
 里の方へ出ると何やら広場が騒がしい。何かしらどうでも良い事で騒ぎ立てるのが紅魔族ではあるが、こうも上級魔法をバカスカ撃っているとなると何かしらの出来事があったんじゃないかと野次馬根性が惹きたてられるのも事実。そちらに向かってみると煽情的な恰好のムチムチボディの女性が彼方此方から魔法を撃たれて涙目で逃げ回っているようだった。

「……何があったんだこれ。女性を追い回しているようだが、と言うか上手く避けるなあの……って角が生えてるから悪魔か。魔王軍の密偵でも紛れ込んだがその正体が露見したと言う感じかな」
「みたいだよ。めぐみんとゆんゆんにやられたらしい爆裂魔が仇討ちに来たらしくてね。黒猫を人質にしていたらしいけど結局ああなったんだとさ」
「ふーん……、ってあるえか。久しぶりだな」
「ふふ、そうだねおんおん。久方振りじゃないか。元気そうで……、本当に元気かい? 微妙に顔が青白いが」
「元よりこの顔色だよ。まだ早朝だしね、血の通いが悪いんだ。にしても……あの魔力量からして上級悪魔だろうアレ。よっぽど自信過剰なタイプだったんだろうな」

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