4 虹ヶ咲学園スクールアイドル:中須かすみ
「湊さーん!」
放課後、練習場所に向かおうと屋外に出たところで、僕を呼ぶ声が聞こえた。
その方に振り向くと、高咲さんが軽快な足取りでこっちに向かってくるところだった。
「湊さん湊さん湊さん! アレ、見ました? かすみちゃんのMV! かすみちゃんの可愛いところがいっぱいで、トキメいちゃいました!」
チャームポイントのツインテールをぴょこぴょこ揺らしながら、興奮気味に寄ってくる彼女に触れないよう、後ずさりする。
見たっていうか、作ったん僕ぞ。
「MVが出来た時に見せたし、あの時感想も言い合ったじゃないか」
「でもでも、投稿されて世に放たれたって考えると、また違うように見えてきて……!」
「わかったわかった。とにかく、話は中でゆっくり聞くから……」
もう、この子ほんと距離近いからお兄さん苦手だわ。
「侑ちゃん、走ったら危ないよ」
後ろから、追いついてきた上原さんが現れて注意した。
個性的な面々の中で、彼女は僕の癒しとなりつつある。というか中須さんと高咲さんが毎日元気すぎる。
「あ、湊さん、こんにちは」
「こんにちは」
「侑ちゃん、昨日からこんな調子で……」
「だってだって、かすみちゃんのMVだよ?」
「それで朝遅刻しそうになったんだよね?」
「う、ごめんなさい……」
仲良いね、君たち。
聞けば二人は幼いころから一緒の、つまり幼馴染であるが、それだけで普通そうはならない。お互いがお互いを想いあってなければ……
「湊せんぱ~い!」
「高咲さんガード」
「うわあ!?」
いつもの場所に着いたその時、ロケットのように突っ込んでくる中須さん。その瞬間、僕は高咲さんの後ろに回った。
勢いづいた中須さんに、高咲さんは押し倒されてしまったが……
「かすみんの動画に、こんなにいっぱいコメントが!」
倒れたまま、ベンチの上に置いてあるPCを指差している。画面を見ると、MVの横に視聴者のコメントがずらりと並んでいた。
「うんうん、ちょっと心配だったけど、好評みたいだね」
思っていたより、賞賛の声で埋め尽くされていた。
なんと外国の人も見てくれているみたいで、英語やそれ以外の言語でコメントを打ってくれている人もいる。
「改めて見ると、やっぱりすごいなあ。撮ってる時にはこんなになるなんて、思ってもみなかったよ」
今回カメラマンを務めた高咲さんが目をキラキラさせる。
映像は編集で化けるが、何より元素材が良くなければいけない。今回の成功は、出演者である中須さんはもちろん、ちゃんと映した高咲さんの力によるところも大きいのだ。
「上原さんのは、もう少し後になるけど、許してね」
「いえいえ、作っていただけるだけで……」
とは言ってくれるが、それほど待たせる気もない。せっかく毎日練習に参加してくれるのだから、ちゃんとしたことをさせたい。
これは別に感謝の気持ちというだけじゃない。
やはり歌って踊るのがアイドル。上原さんのモチベーションを保つためにも、スクールアイドルらしいことをさせるのは重要だ。
それに知名度が上がれば、元メンバーもやる気を出して戻ってきてくれるかもしれない。
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