ハーメルン
聖闘士セイヤッ! 水晶哀歌~水晶聖闘士になった俺の華麗なる生存戦略~
第7話 新章開幕の際には説明回を挟むのがお約束な生存戦略

「こういうのってさ、成金趣味ってわけじゃないだろうけど。まあ、金持ちの考える事、ってやつはだな?」

 グラード財団により日本に向かう星矢と氷河、二人を乗せる為だけに貸し切られた旅客機の中。
 居心地の悪さに辟易とした星矢が、隣に座る氷河へと話を向ける。

「オレみたいな小市民にはついて行けない、つーか、感覚がさ、分っかんないよな? こーんなでっかい飛行機をオレたちだけのために貸し切りだぜ?」

「…………」

 対する氷河は腕を組み、じっと目を瞑ったまま答えない。
 普段の星矢であれば、『おい氷河』と更に続けていたのであろうが、軽く息を吐くだけでその視線を窓の外へと向けた。

 分かっていたからだ。
 氷河が何を考え、何をしているのかを。
 それは、今までとは異なる、新たな手法を用いての己の内に燃える小宇宙へのアプローチ。

(まあ、あんなもんを見せられちゃあな。氷河が目指すべき氷の闘法の一つの到達点――オーロラエクスキューション。
 水晶聖闘士は後始末と言ってあのバカでかい氷のピラミッドを、同じ属性であるはずの凍気によって完全に破壊して見せた。
 水晶聖闘士は「所詮は我が師の、友の真似事に過ぎん。私では到達することの叶わぬ頂よ。だが氷河よ、お前ならば辿り着けるはずだ」とか言っていたが……)

 星矢は今、氷河から水面に広がる波紋のように、静かに広がる小宇宙を感じ取っていた。
 それは、これまでの熱く、激しく燃え上がる小宇宙とは対極にあるようでいて、しかし、感じられる力の密度に遜色は無いようにも感じられる。

(今までのオレたちのやり方は、ロウソクの炎が消えるその瞬間に一際大きく燃え上がる事と同じ。その先には終わりしかない、か)

 これまでの戦いの中で、燃え上がる闘志に、感情に任せるようにして高めていた小宇宙。
 それは、確かに爆発的な力を生み、幾度となく星矢たちに訪れた危機を乗り越える切っ掛けとなっていた。
 しかし、同時にそれは、限界を超える事により自身に多大な負荷を与える事と同意でもあった。
 その結果の一つが、先の戦いでの敗北である。
 水晶聖闘士との戦いで限界まで高めた小宇宙。それによりその場では勝利を得たが、その反動によって直後のシャイナやアラクネとの戦いにおいて精彩を欠いたのもまた事実。

(あの時は、ああするしかなかった。全力を出し、さらにその上を行かなければオレたちは水晶聖闘士には勝てなかった。
 まあ、そう思っていたのはオレたちだけで、実際のところは水晶聖闘士の掌の上だったわけだが)

 アラクネとの戦いで見せた水晶聖闘士の実力。あれを見せられて、自分たちが水晶聖闘士に勝ったなどと言えるはずもなく。
 聖域からの制裁を体にした、ある種の試しであったのだと今なら理解出来る。

(水晶聖闘士は言っていた。オレたちのやり方は間違いではない、と。しかし、それだけでは足りない、とも)

 足りない。
 自分に足りていないものなど幾らでもある。
 だが、そういう事を言っているのではない、とも分かっていた。

「……それが分かった時、オレたちは今よりも遥かに強くなれる、か」

 呟き、再び星矢は窓の外を見た。
 青々と広がる空の下では、しかし、邪悪な意思によって自分たちの想像もつかないような何かが起ころうとしているのだという。

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