第一話「ぼっちとソロと遭難者」
アウトドアチェアに座り、ペラペラと一枚づつページを捲っていく。
此処は本栖湖のキャンプ場。俺は一人、湖畔でラノベを読んでいる。
寒さも焚き火の炎で温まる為の程好いアクセントである。
人気のキャンプスポットだが、季節外れと寒さも相まって、現在俺一人と貸しきり状態である。
シーズンオフマジ最高!
コンパクトバーナーで暖め直したMAXコーヒーで喉を潤してラノベを読み、聞こえて来るのはチャプチャプと波の音だけ。
何これ?言う事無いんですけど!
俺もう此処に永住したい。
ピロンッ
そんな事を考えていたら、スマホからラインの着信音が鳴る。
通知相手は知った奴だ、知らない奴からだったら詐欺電話だよね。
俺、一体何を売りつけられちゃうの?
リ《おす、比企谷》
八《うす》
リ《比企谷も此処だったんだ》
八《まあな。富士山見たかったんだけどな》
リ《傘かぶってる、残念》
八《それ以外は概ね問題ない。じゃあな》
リ《うい》
そんな短いラインを終えた相手は少し離れた場所でテントを張り始める。
彼女の名は『志摩リン』
以前、別のキャンプ場で忘れて来た道具を貸し合ってからの付き合いだ。
お互いにボチ(ソロ)キャンが趣味という事もあり、時々キャンプ場が被った時などにこうやってラインのみの会話はよくする。
同じ学校の同級生ではあるが、学校では特に関わり合いになる事も無く会話する事も無い。
まあ、丁度いい距離だという事だ。
ー◇◆◇ー
ランタンの光の中で二冊目の中程まで読んだ時、焚き火の炎が揺れて薪がパチリと軽く爆ぜた音でふと気付くと、辺りはすっかりと暗くなっていてすぐさま尿意が襲って来た。
「おぉ~、マッ缶飲みすぎた。トイレだトイレ」
道路脇の公衆トイレまで上り、無事用を足して戻ろうとすると…
ヒック、ヒック
暗闇ではあまり聞きたくない啜り泣きが聞こえて来た。
やだ、聞き間違いだよね?
ねえ、お願いだからやめて。マジで怖いから。
ヒック、ヒック、ズズーーッ
あ、鼻水啜る音も聞こえた。
なら安心、幽霊って鼻水啜ったりしないだろう。しないよね?
そう思って横を向くと…
「えっぐ、えっぐ、えっぐ」
ランタンに照らされた怪しすぎる人影が浮かび上がった。
「うびゃあっ!」
驚いて逃げ出す俺をその怪しい奴は両手を突き出して追い掛けて来る。
何これ?怖い怖い怖い!
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!何だ何だ何だ何だあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「うびゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!」
逃げても逃げても奇声を挙げながら追い掛けて来る。
怖い怖い怖すぎる!
「べとべとさんっ!お先にどうぞおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
「びゅええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇんっ!」
くそっ!この呪文でも駄目とは、所詮は都市伝説か。
後ろを振り向くと奴は付かず離れずで追い掛けて来るが、振り向いたのが悪かったのか足をもつらせて転んでしまった。
「ぐへっ!」
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