■3 せかいのどく
◆7 王道エヴァルート
エヴァンジェリン・アタナシア・キティ・マクダウェル。
六〇〇年を生きる吸血鬼の真祖であり、元であるが六〇〇万ドルの賞金首だ。魔法使い達の間では、闇の福音と呼ばれ恐れられている。
「……ヤバくねーか?」
「いや、そこまで極悪ではないですね。魔法使いの国における扱いは、一種のナマハゲのようなものです」
「悪い子はいねーかーって?」
「はい、子供の教育に使う、偶像としての悪役ですね」
その扱いに、キティちゃん本人がどう思っているかは知らないが。
「それに今は、呪いで強制的に麻帆良の地に縛りつけられたうえで、麻帆良の魔法結界で無力化しています。魔法的な観点で見れば、安全ですよ」
「魔法的な観点ってなんだよ……」
「人間的な観点で言うと、六〇〇年生きた人ですから、武術の達人となっています。推定猫二匹分未満の強さしかない今のちう様では、指先一つでダウンです」
「全然安全じゃねえ!」
と、そんな会話をしながら、エヴァンジェリン邸の前で彼女の帰りを待つ。
こちらは小学五年生で、相手は中学生のため、放課後に到着した時点でもまだキティちゃんは帰宅していないようだった。ちなみにエヴァンジェリン邸は、ちう様との一年間の麻帆良マップ作りですでに発見済みだった。オシャンティなログハウスである。
やがて、日がやや傾いてきたあたりで、キティちゃんが私達の前に姿を現した。従者はいない。絡繰茶々丸は未完成なのだろう。
「なんだ貴様らは。そこは私の家だぞ」
「オシャレなログハウスですね」
そんな言葉を私は切り出す。
「ふん、ここは子供の遊び場じゃない。お子様はさっさと帰れ」
私の横でちう様がイラッとしたのが分かる。
うん、相手の見た目は、明らかに私達より年下の少女だからね、見た目だけは。そんな子にお子様扱いされて、反射的に頭にきたのだろう。
「私は刻詠リンネ。こちらは同級生の長谷川千雨さんです。闇の福音、エヴァンジェリン・アタナシア・キティ・マクダウェルさん。あなたにお話があります」
私がそう告げると、キティちゃんの目がすっと細くなった。
「魔法生徒か。肝試しにでも来たか? あいにく、私は人に優しいお化けじゃないぞ」
キティちゃんの右手の指先がピクリと動く。
人形遣いの糸術だ。魔法の力を封じられたキティちゃんの手札の一つ。
だが、それを使えるのはキティちゃんだけじゃない。
私は指先で糸を操り、キティちゃんが飛ばした糸をからめとる。
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