14話 万引き少女現る
「ところで護君。あなたは窃盗という行為について、どう思いますか?」
「どうした急に?」
プール授業が有った日の放課後。
帰り道、有栖が護に向かって唐突にそんな話題を振ってきた。
「単なる好奇心です。そうですね、例えば万引き。
目の前にそれを行った者がいたとして、あなたはどうしますか?」
「……それ、ここ最近コンビニに寄り続けたことと関係ある?」
校舎から学生寮までの道のりにはコンビニがあるのだが、ここ数日の間、有栖は帰る途中でそのコンビニに繰り返し足を運んでいた。
買うのはいつも日持ちのしない生菓子。買い置きしておくのも難しい品のため、頻繁に買いに行くこと自体は不自然ではないが、護にはその行動がコンビニに寄るための理由作りをしているように見えていた。
何かあるなと怪しんでいたところで、この話題である。
「おや、まさか護君は私が万引きを企てているとでも?」
「別に、そうは思ってない」
有栖が品行方正な人間と信じている訳ではなく、万引きのようなみみっちい行為が似合わないという意味で。
「ほんの意識調査のようなものです。深くは考えずお答えください」
(意識調査ねぇ……)
素直に意図を語る気はないようなので、護は仕方がないなと、少し真面目に考えてみる。
空を見上げながら熟考し、しばらくしてからようやく口を開いた。
「……正直な所を言うと、あんまり興味がない」
「興味がない、ですか?」
「実際にそういう場面に居合わせたら、止めるくらいのことはするのかもしれない。
けど、こうして話している分には顔も名前も知らない相手だ。俺は見ず知らずの相手に真剣に気を割けるほど、お人好しじゃない」
護の善意は基本的に、目の前に居る人間に向けられる。
世界のどこかで苦しんでいる人間がいるとして、その人のために何ができるのか、ということまでは考えない。
故に、このように仮定の話をしている分には、自分がどのような行動をするのか、具体的に想像できなかった。
「つまり、罪そのものに関心はないと?」
その言葉を聞いた瞬間、護はつい笑ってしまいそうになった。
人の法の外で生きる呪術師に対して、罪の是非を問うているのだから。
「罪を問うのも、罰を下すのも、それは俺の仕事じゃない。それは被害者が持つ権利だ」
護にとって法というのは、ルールというよりモラルに近い。
全てを無視していいとは思っていないが、それに縛られているというわけでもない。正しく強制力が発揮されない時点で、どうしたって一般人よりも軽視した見方をしてしまう。
あるいは、呪術師であれば誰もがそうなのかもしれないが。
「逆に言えば、実際に被害が無いなら、俺はそこまで大事にすることもないとは思ってるよ」
このような話をしている時点で有栖が何がしたいのか、ある程度の予想はできている。
(大方、万引きしそうな生徒がいたから弱みでも握ろうとしてるんだろ)
ターゲットに選ばれた生徒は不運だが、そこは自業自得な話でもある。護としては、有栖の行動に対して特に意見するつもりはなかった。
有栖の味方をするわけではないが、万引き犯に同情する理由もない。
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