「あれがレースの感覚か……」
メイクデビューから数日、沖野に言われたとおりに十二分に足を休めた為に既に身体には活力で溢れかえっていた。活力もあるが、彼女の体には精神的な力にも満ちていた。初めてのレースを体験し、そこで見事な大勝を飾っての見事なデビューを飾った。勝てた事は勿論嬉しい、だがそれ以上にクリムからの言葉が何よりも嬉しいと感じられていた。次も勝てば父は褒めてくれるのだろうか、そんな何処かズレた事を考えながら席に着くと隣のウマ娘が話しかけてきた。
「おはようチェイスさん、デビュー戦おめでとうございます」
「有難うえっと……エーフィ」
「はい、お隣のエーフィです」
名前に迷いながらも話す姿に笑みを作りながら応えるのはクラスメイトであり、隣の席に座るエーフィグローリー。彼女の特徴は光の当たり方によって輝き方を変える不思議な葦毛の長い髪。光が当たると葦毛には見えない美しい色合いの紫に見えるのが最大の特徴。自分よりも先にデビューをしている同期でもある、が、彼女は短距離走者なので恐らく被る事はないだろう。
「本当に素晴らしかったですわ、あそこまでピッタリと付けるなんて……私には出来ない事です」
「コツが分かれば簡単だと思うぞ、相手の呼吸に合わせて走ればいいだけ」
「それが難しいと思いますよ?」
気品のあるお嬢様といったように微笑むエーフィ、地方からの転入生ということで自分は何処か田舎者扱いで僅かに距離を取られていた。当然だ、レース関連の知識が皆無な上にスピカの沖野と皇帝、女帝にスカウトされて中央にやってきたなんて他のウマ娘からしたらよくは思えないだろう。チェイスはあまり気にしていなかった、そんな中で仲良くしてくれたのが隣のエーフィだった。
「出来れば私の走りに組み込んでみたいのですが……相性が最悪ですから無理ですわね」
「エーフィは逃げだったね、それに短距離だったらあまり必要とは思えないな」
「でも、折角ですから並走トレーニング致しませんか?私チェイスさんの走りを近くで見たいです!」
「勿論良いよ」
この中央に来てから初めての友達二人目はライスシャワー、三人目はヒシアマゾン。といえる存在、お嬢様な上に今まで箱入り状態だったらしく彼女としてもチェイスのことは何も気にせずに仲良くしたいと思っている。
「その代わりに今度勉強を教えてくれないか、レースの知識をつけないといけない」
「お任せください、チェイスさんのファン一号として全力で応援いたしますわ!!」
「いや、すまないけど私のファン一号は私の地元の人に取られてると思う」
「ならば中央でのファン一号ですわ!!」
「それならたぶん大丈夫だと思う」
「さてとチェイス、改めてクラシックの三冠を目指すに当たってなんだが……お前には基本的にガンガン走ってもらって経験値の蓄積と覚えた技術の実践をどんどんやってもらうつもりだ。後次のレースも俺のほうで目安をつけさせて貰う」
「分かりました、レースのほうはお任せします。分かりませんので」
「少しは分かる努力はしてくれよ、な?」
「エーフィにお願いしてお勉強中です」
そう言いながら懐からエーフィから借りたお勉強ノートを取り出して胸の前で構えてフンスと言わんばかりのドヤ顔でアピールするチェイス。やはり彼女は自分たちが思う以上に幼いというか無邪気な所が目立つ気がする。ミホノブルボンを知っているだけにどうにも頭がバグりそうになるのを抑えながら改めてこれからのプランを明確にしておく。
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