第九話「紅の魔術師」
「雨野菜摘の場所は聞くだけ無駄らしいな」
炎が巻き起こり、タオの装甲を簡易フライパンへ変える。当然金属ではなく、耐熱性柔軟性に優れる樹脂なのだが、そういう問題ではもはやない。
「……っぐ」
「私は別に人間どもに興味があるわけではない。殺しがしたいわけではないのだが」
黒と白のシェイドは、鳥のような顔立ちに牙、毛、蛇のような鱗。見るからに悪魔という姿をしていた。迫るタオを押しのける、圧倒。
「どこにいる?レギエルは」
「お前は何者だ!」
「質問に質問で返すのは無礼だと思うがな」
『ミチくん大丈夫!?』
「問題ない!」
「誰と話してるんだ貴様は」
首根っこを掴みつつも最後はいら立ち気味に頭突き。ひるむタオをさらに蹴飛ばし、炎で追い立てる。熱い、痛い、苦しい。それでも、何故か服やスーツは燃えず熱だけ伝わる感触。悪魔の炎だ。
「待たせたわね!」
バルトチェイサーに乗った春子が、タオへ投げ渡す、新装備。武器だ。
タオブラスターと同じほどのサイズのその銃。全体的に十字を模したそいつを受け取れば、明路の視界へどんどん説明書が。
「なるほど、そうまでして雨野菜摘と会わせたくないようだ」
「そうなるな。ところで春子。これは……」
「浅井さんは大反対だったわよ。でもあたしが説き伏せた」
春子が続けて投げ渡す、月のアルカナキー。それを十字型の銃改めゴスペルブラスターへセットした。
『コッフオル』『ムーン』
「コッフオル……そういえば名簿に居たな、奴も。奴は」
「ベラベラうるさいぞ!」
『Ji-Du-TAO!Moon!That Lunacy!』
「っぐぁああ!!」
悲鳴を上げたのはタオの方。手が焼け、ぶっ飛ばされる反動とともにタオがぶつかり、バルトチェイサーが倒れ込む。バイクには傷ひとつつかないのがさすがではあるが。
とはいえ不発ではない。着弾点に放たれた霧が、シェイドへと幻覚を放つ。
「っ……!」
「チャンスって言いたいけど……明路アンタ大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ!」
その身を奮い起こす彼をよそに、シェイドはまともに取り合うつもりなし。あたりに炎を放ち、姿を消した。幻覚に付き合う暇はないという判断だろう。
同時に何か緊張の糸が切れたのか、タオが膝をつきかける。それを春子が支え、部下の乗るバンへ。彼女がバルトチェイサーに乗り込み道を引き返す。
第九話「紅の魔術師」
大きな怪我はないが打撲と疲労が見られ、何より手の火傷が射撃の邪魔になる。次タオが出るなら春子が行くとの事で決まった。
明路に申し訳なさそうにする反面、留一と春子はお互いを牽制しあうような視線だった。
「……どうかしたのか?」
「いーえ?別に」「いやぁなんでも」
「? そうか」
妙なところで息は合っているが。
「不甲斐ない。俺は負けて怪我をすることが多くないか?」
「前線に出て戦ってりゃね」
今回はベッドではないが、それでも包帯の巻かれた右手に思うところはある。
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