第七話「白い恋人」
「……もぬけの殻か」
やはりシェイドサンこと、「矢沢裕絵」の姿はそこにはなかった。事務所に探りを入れた時点で気づき立ち去ったのだろう。
そもそもレイフの独断では動けず、いろいろ通すより検察に探らせる方が早かったという事情はある。それゆえシェイドとしてのあれこれを考慮しておらず、菜摘がついていくのがレイフの最大限の干渉だった。
「証拠品の押収を行いましょう」
検察官が言うのはいいが、どうもやはり証拠品になるものなどが残っているわけではない。カーテンの締め切られた部屋自体が捜査対象ゆえに不用意に動けない暗い部屋が出来上がっている。
「……こちら、何か扉が」
「何?」
カーペットの下に不審な空間がある。まさか地下室が?その嫌な予想が正解し、検察官たちが向かっていく。付いてくる菜摘に、1人検事が振り返る。
「特殊技術部隊の頼みだが……君のような一般人が」
苦言は地下から聞こえた悲鳴で打ち消される。止められながらもかき分けながら菜摘が進む先、地下室。そこに立つ女性が、倒れたままのたうち回る検察官を見下ろしていた。その手には、アルカナキー。
「皆さん逃げてください!」
「しかし」
「僕はレイフの公的な協力者です!」
その意図が「知らないやつに任せておけない」であれ「一般人を危険にさらすなど」であれ、渋る彼ら。無理矢理追い出し、菜摘は構える。
『受胎告知』
「……天使ね」
「何をした!」
「さあ、勝手に苦しんだだけよ。幻覚の内容は……私が決められはしないもの」『コッフオル』
「……悪魔だよな、そりゃ。変身!」
『ムーン。融合解放』
『解放。降臨……置換……変化……聖なる、開幕』
レギエルの放った拳は、シェイドムーンをすり抜け虚空を斬る。背後の気配に裏拳を放つもそれもすり抜け、まるで霧を殴るような感覚。
「消えなさい」
そして、気づけば眼前にシェイドの手が迫っていた。おそらく幻覚によって苦しめる能力。頭を攻撃されれば、きっと彼のようになる。
おそらくアルカナキーを突き立てられたであろう検察官を尻目に、転がって回避。彼はキーを取り出す。
『節制』
「日向さん……」
『介入、開錠、解放……節制。その、献身』
火、水、風、土。それに並ぶ五大元素のひとつ。空すなわちエーテル、宇宙の力のドールが、はじけ飛び入れ替わった胴体から放たれる。あたりを攻撃するドールたち、閉鎖空間ゆえの数撃ちゃ当たるだ。
「バカね……」
その頭に再び伸びる手。がしっと掴み、そして初めてそれがドールと知る。
「……これは」
「よく見た方がいいよ、慢心せずに」
上だ。落下と共に繰り出される拳をその背に受け、シェイドの体勢が崩れる。レギエルに放った蹴りも簡単に受け止められる貧弱なもの。投げ飛ばし追撃を狙う。
まあ、シェイドムーンもそこまでアホ丸出しではない。すぐさま幻影に消え、再びレギエルを惑わせる。今度は不用意に手は伸ばさない。刻一刻と時が過ぎる。
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