吸血鬼と人間
「(……ぐっ)」
日差しの眩しさに思わず顔を逸らしてしまう。人が心地よく眠っているというのに、直射日光は勘弁してほしかった。そうして寝返りをうったところで、ふと違和感を覚えた。
「(……ん?眩しい……?)」
息を引き取ったはずの己が、日差しの眩しさを感じ取ったことに疑問を抱き、ゆっくりと目を開けた。そこはどこかの森の中なのか、穏やかな木漏れ日が差し込んできていた。
「……なんじゃこりゃ」
寝ぼけ眼を擦ろうと手を眼前に持ってきて――
「……なんじゃこりゃ!?」
思わず驚愕した。そこには、若々しい肌があったからだ。目に見える肌という肌を見まわすと、随分と若々しい体であることが分かった。
「(……死んだと思ったら、どこぞと知れぬ森の中で若返っている件)」
少なくとも、自分が死ぬ直前までいた山の中ではないのはわかった。空気が明らかに違うからだ。この森の中は、空気が澄んでいる。森の中にいるだけで、心地よさを感じるほどなのだからなおさらだ。
「……とりあえず、状況把握だな」
青年は目につく範囲内で一番背の高い木を見つけると、迷うことなく上っていった。ある程度視界が確保できたところで、周囲一帯を見渡す。すると、明らかに人が住んでいると思しき建物がいくつか散見された。
「あっちか」
木から飛び降りると、真っ直ぐにそちらへ走っていく。その足取りに、迷いも恐怖もなかった。
青年が走り出してしばらく。青年は人が住んでいる里に到着した。世界中を見て回った青年からすれば、何やら故郷に戻ってきたような錯覚さえした。それほどに、彼の生まれ故郷と生活環境が似ているのだ。
「へぇ……過疎地域かと思ったが、そうでもなさそうだな」
最高の友人がいなくなってから久しく、人間と接する機会がめっきりと減った青年にとって、これほど人間が住んでいる場所は実に久しぶりだった。おもわず里の中をきょろきょろうろうろと挙動不審になってしまったが、それも仕方のないことか。
「……んん?」
しかし、青年はすぐに違和感を覚えた。なぜなら、この里の中にある気を探ってみれば、明らかに人間以外のモノも混じっていたからだ。しかし、敵対している様子はない。むしろ共存しているとさえ言っていい。
「まるで楽園だねぇ」
かつての自分と最高の友人のような関係が、これほどの規模で築かれていることに感心した。それと同時に、どうして自分たちの周りでその関係が築けなかったのだろうと、悲しみの念にも駆られた。
感慨深く眺めていた青年だったが、そんな青年へと声をかける者がいた。
「失礼、そこのキミ」
「ん?」
振り返れば青のメッシュが入った銀髪に、靴を除けば青で統一された衣服を着た女性がいた。自分が声をかけられたことに気付いた青年はすぐに返事を返した。
「あぁ、どうも。何か御用で?」
「いや、この人里の中では見慣れない人間だったので、声を掛けさせてもらった。キミ、いったいどこから来たんだ?ついでに君は誰なんだ?」
女性の質問に対して、青年は特に苦に感じることなくスラスラと答えた。
「俺の名前か……俺の名前は『ダン・ハトバ』。ここが極東方面なら『鳩羽 断』になるのかな。吸血鬼に挑み続ける、ただの格闘家だよ」
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