ハーメルン
世界の天秤~侯爵家の三男、なぜか侯爵令嬢に転生する
第8話 ダンスレッスン(後)※
王城は広いので、ダンスの練習に使える部屋などいくらでもある。
がらんとした部屋の真ん中で、私は殿下と向かい合った。殿下が手を差し伸べてくる。
「よろしくお願いします」
ドレスをつまんで頭を下げ、その手を取った。お互いに寄り添い、いつでも動き出せる姿勢になる。
「ホールドの姿勢は問題ないな」
横から眺めながらスピネルが言う。そして、ダンスの練習が始まった。
音楽などはないので、スピネルが声をかけながら手拍子を取った。
「ワン、ツー、スリー…」
初めはそれなりに上手く行っていた。
所々ぎこちなさはあるが、ステップも姿勢もちゃんとしていたと思う。リズムにも乗れている。
だが、途中からだんだんとおかしくなっていった。止まりかけたり、ステップを間違えたり、身体のあちこちに変な力が入っているのが自分でも分かる。
もうすでに何度か殿下の足を踏んでおり、そのたびに動揺してしまい加速度的におかしくなっていく。
「ストップ!」
あまりの惨状を見かねたらしく、途中でスピネルが止めた。
私は申し訳無く殿下の顔を見上げる。
「すみません殿下…。踏んだ所、痛くありませんか」
「大丈夫だ。君は軽いから全く痛くない」
殿下は平気な顔だ。なかなか派手に踏んでしまったのだが。
ほとんど顔に出さない方なので、我慢していてもわかりにくい。
傍らで頭を抱えたのはスピネルだ。
「これは重症だな…。最初は普通だったのに、なんでそうなる」
「頑張ろうとすればするほどおかしくなるんですよね…」
「なんでだよ」
「……」
原因は自分でも分かっているのだ。でも、説明できない。
「もう少し続けよう」
そう言ったのは殿下だった。再び私に向かって手を差し伸べる。あんなに足を踏んだのに。
「…よし。次は俺が気になる所を指摘していくから、ダンスそのものは止めずに、踊りながら修正していけ」
「はい!」
せっかくの練習の機会なのだ。付き合ってくれている二人のためにも、もっとまともに踊らなければ。私は真剣にうなずいた。
「…ストップ。やっと分かった気がする」
頭痛をこらえるような仕草をしながら、スピネルは再びダンスを止めた。
私はホッとして、乱れた息をつく。ずっと踊っているのでずいぶん息が上がってしまった。殿下はまだ平気そうだが…。
「原因が分かったのか?」
「ああ」
…え、原因が分かった?
「殿下、ちょっと俺と代わってくれ。確かめたい事がある」
今度はスピネルが私の練習相手になるらしい。だ、大丈夫だろうか。正直嫌な予感がする。
「リナーリア、大丈夫か?だいぶ疲れているだろう」
「が…頑張ります!」
殿下に心配そうに言われ、私は気合を入れ直した。
このまま何の成果も出せないのは私も嫌だ。この程度でへばっていられるものか。
「よし。今日はこれで最後にするから頑張れ」
そう言って目の前に立ったスピネルとホールドを組もうとし、私は戸惑った。スピネルの体勢、これはどう見ても…。
「あの、スピネル?」
「お前は男役だ。俺が女をやる。身長差は逆だが、適当に合わせてやるから」
「あ…、はい…」
スピネルの目は据わっている。
とても逆らえる気がせず、私はおずおずと男性側の姿勢を取った。スピネルは女性側の姿勢だ。
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