それは星砕きの追憶
「なんだ我が王。何? カーリア王家の墓地について聞きたいだって?
答えよう。お前は名実ともにカーリア王家なのだから知る権利がある」
するとエルデの王は「あそこにいた赤狼はなんだったんだ」と問う。
「ああ……あそこにいた赤狼か? あれは私が過日に父であるラダゴンから賜ったのだよ。父の赤狼の子どもでな。その兄弟たちをライカードやラダーンも渡された。
だがしかし、知っての通り私は神人の道を行かぬと決めていた。ゆえに赤狼は置いていくと定めていた。
とはいえ数少ない父からの贈り物だ。無下にはしたくないし、なまじ強力であるため野に放つというのも危険だった。
だから墓地とあそこの封牢を守らせていたのだ」
封牢と言えばとさらに言った。
「なに? 封牢の囚人と戦っただと……そうか。いや、気にしなくていい。あそこにいたのは紛れもなく罪人であり……なんだ。石肌の白王がどうしてあそこにいたのか気になるのか」
褪せ人が頷くとラニはどこか忌まわしそうに、だが懐かしむような表情を見せた。
「話せば長くなるが……まあいい。教えよう。彼がどうしてあそこにいたのか。
それはあのラダーンとも関係のある話だ」
これはまだ星砕きと呼ばれる前のデミゴッドの逸話。
その一端である。
それはある日のこと。
ラダーンがラニの元を訪ねた。
何の用だと問えば馬を強靭にする魔法を知りたいという。
ラニは思い出す。ラダーンの馬は少年時代に彼に与えられた馬だ。教養として馬術を学ぶためのものであり現役の軍馬ではない。みすぼらしい痩せ馬だったと記憶している。
貰った当時のラダーンはラニと変わらぬ背丈だったが、今やトロルに比肩するほどの巨躯にまで成長した。一体何を食べればこんなに巨大になるのやらと内心で呆れつつ、あの馬をどれだけ強化したところで今のラダーンを乗せられることはできないだろうと告げた。
「ツリーガードや夜騎兵の馬を父に求めてはどうだ?」
リムグレイブやケイリッドの哨戒をしている彼らの馬は強靭だ。騎手がどれだけ重武装しても速度を落とさないだけの脚力があり、ラダーンの勇猛さに付き合えるだけの胆力も持っている。
現在は女王マリカの夫であるとはいえラダーンがラダゴンの息子である事実はその赤い髪が証明している。ねだれば与えられるだろう。
しかしラダーンはラニの提案を強く断った。
ラダーンにとってラダゴンは英雄として憧れの対象であったが、あの裏切りとも呼べる離婚は到底許せるものではなかったらしい。母レナラの狂態をみればそれも納得せざるを得ないだろう。
それに彼にとってあの馬は唯一無二の友なのだ。
道具のように使えなくなったから捨てるなど考えられぬと鼻を鳴らして答えた。
「お前とてあの義弟や軍師よりも強く賢いものが仕えたとて、彼らを放逐はしないだろう?」
そうだなとラニは微笑んだ。
どうもこの大男と自分、いやライカードもだが自分の近しい者を強く愛する傾向があるらしい。その際たるは母であるレナラで、だからこそああなってしまったと言える。
しかしあの痩せ馬を使い続けるならばどれだけ強化したところでラダーンの求める機動性を得ることは不可能だ。元が貧弱であるゆえに強化の幅も低いのは自明の理と言える。
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