それは星砕きの追憶
ゆえに発想の逆転が必要だ。
「馬ではなくお前を軽くするしかない」
つまり求めるべきは強化ではなく軽化の魔法に他ならない。
しかしラニは重力魔法については専門外だった。レアルカリアの学院においても重力魔法はあまり興味深く研究されているとはいえない。
いや、待て。一部の教室がそれを研究していたはずだ。
「確かオルティスという魔術師が重力操作の魔法を使っていたな」
レアルカリア学院のオルティスという魔術師に会えばいいのかとラニに問うラダーンであったが首を振る。
オルティスは既に教室を去って久しい。もしかすると研究の一部が残っているかもしれないが、学院の者ではないラダーンがそれを譲り受けられることは考えられないし、そもそもラダーンは魔術師ではないため教える者が必要だ。
「石肌の種族がいればな……」
石肌の種族とは何だと問うラダーンに彼らについて説明する。
石肌の種族とは簡単にいえば古代において永遠の都を支配していたという黒白の種族だ。彼らは隕石から生まれ、重力操作の魔法を得意とした。
しかし伝説にある通り、永遠の都は大いなる意志の怒りに触れて消滅した。正確には違うが“そういうことになっている”。
どちらにせよ重力操作の使い手よりも会うことは難しいだろう。
するとラダーンはジェーレンに聞いてみると言った。
ジェーレンというのはカーリア王家の客人であった放浪騎士の名だ。道化と見違えるほど色鮮やかな防具を着こなしており、奇矯騎士とも呼ばれる。確かとある輝石魔術師を捕らえたのを最後に去っていった気がしたがラダーンとは今も交流を持っていたようだ。
さすがに知らないだろうなと思う一方で、あの放浪騎士の見聞ならもしかするととも思う。いずれにせよ自分に手伝えることはここまでだなとラニは思索を打ち切ってラダーンを見送った。
後日、ラニは二本指と縁を切ることを決意した。
それは永遠の都と同じく二本指の支配に対抗することを意味する。しかしながら二本指は殺せない。正確には神人である自分には殺せないのだ。
運命なき肉体を捨てない限り。
肉体を捨てたとしても敵対する二本指を殺すための道具も必要だった。かつて永遠の都ノクローンは指への大逆によって滅んだが、指を殺すための秘宝があったと聞く。
そしてほぼ同時期にラダーンが重力魔法を使っていることを知った。
「ああ、そうだ。お前も知っての通り、私はデミゴッドであったが二本指に従うつもりは毛頭なかった。
だがあの頃はまだ死んでいないし、破砕戦争も起きていなかった。ノクローンを探しているなどと言えばあらぬ疑いを持たれかねない。
従ってどうなるかは明白だった」
ラニは義弟にして従者であるブライヴをラダーンへと遣わせた。
ローディルの将軍と没落したカーリア王家の従者という明確な地位の差があるにも拘わらず、ラダーンは幼少期と同じくブライヴに親し気に接したらしい。
しかしながらブライヴの用件が重力魔法の件になると顔をしかめた。
ラダーンの重力魔法の師である石肌の白王は前述通り永遠の都を治めていた。それゆえに暗黒の流星によって沈められたが、たとえ都が失われようと白き王たちが抹殺対象なのは言うまでもないだろう。
月の王女ラニといえば当時、次なる神の候補とされていたデミゴッドだ。そんな人物が石肌の白王に会いたいと言う。
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