九話
11月も中旬に差し掛かったある日の放課後。
誰もいない図書室では、リンがスマホの写真を眺めていた。
それは、富士山と広大な芝だったり、人懐っこい柴犬だったり、人の顔に見える建物だったり。そして、餃子鍋だったり、富士山を背景に写るなでしこだったり、二人のツーショットだったりした。
先日の麓キャンプ場での写真だ。キャンプではずっと一人だったリンは、誰かとキャンプするならこんな感じなのだろうかと思い返し、感慨にふけっていた。
(ワイワイするのは苦手だけど、あいつと一緒なら楽しかったな……。守矢のことも少し知れたし)
と、そんなリンに近づく影が一つ。
「さっきから何ニヤニヤしてんの?」
「っ!?」
ビクッとあからさまに手に持ったスマホを放り投げ、わたわたと何度かお手玉して何とかキャッチ。
セーフとほっと息をついて、突然声をかけてきた人物、恵那に振り返る。
「…な、なんでもない」
「何かあるときの言い方じゃんそれ」
これは追及を避けられないと判断したリンは、一部を隠して白状した。
「――――そっかそっか。なでしこちゃんとキャンプしたんだー」
「お前の差し金だろ。守矢経由でなでしこに知らせるとか凝ったことしやがって」
思ったのと違ったなあと恵那は心の中で思う。まあ、あのメッセージでコウタロウがリンのところまで行っていたら、自分が色々と手を焼く必要などないわけだが。
「ふふ、どうかなー?」
「確信犯だこいつ……」
「ね、今週はどこか行くの?」
「…………」
ジト目を向けられる。先日居場所を教えたことが相当響いてるようだ。
楽しかったくせにという言葉を飲み込んで、恵那は約束した。
「もう誰にも言わないからー」
「……長野行ってみようかと思ってる。今週バイトだから来週」
「ふーん。諏訪神社行ったり?」
「…………別に」
「ふふ、そっか」
別に諏訪神社と彼は関係ないのに、分かっててもゆかりあるとこが気になるんだなあ……。
この自分の気持ちに鈍感で、クールぶってるけどいまいちなりきれない親友のために、もうちょっとお節介を焼こうと決めた恵那だった。
☆
一方本栖高校の校庭の一角では、野クルのメンバーが集合して落ち葉焚きをしていた。
なお、部への昇格の件で登山部の大町先生に確認を取ったところ、四人ではなく五人だったということが判明した。それを聞いた千明は膝から崩れ落ちた。さもありなん。
しばらくは狭い部室のままである。
「よーしお前らよく聞け。野クルも四人になったことだ」
そんな中、すっくと立ちあがった千明に三人の目が集まる。
「これから本格的に『冬キャン』の準備を始める!!」
こぶしを握って宣言した。
「オス!」
「おす!」
「押忍!」
ノリのいい部員の反応に千明は満足げに頷く。
と、手を大きく上げたなでしこから早速質問が飛んでくる。
「ぶちょう! いつキャンプやるんですかっ!?」
「うむ。これから決めてくぞー」
千明が答えると、間髪入れずに再度質問が。
「ぶちょう! どこでキャンプやるんですかっ!?」
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