DC-1 【幕開け】戦闘後
10月23日。
その日、都市の栄光を主張し続けていた双鷲の旗は血に染まり焼け焦げ地に落ちた。
平穏そのものであった日常は瓦解し、後に残るのは絶望のみ。人気に溢れた賑やかな街並みは軒並み破壊され、暖かく家庭を包み込んでいた煉瓦造りの家は、同時に彼らの終わり場所としての役割も兼ね備えることとなってしまった。
本来この様な事件を未然に防ぎ、この都市の栄光を絶対のものとすべき守衛は、真っ先にその凶刃によって真っ赤なオブジェに作り替えられた。
人々が時間と多大な労力を消費して作り上げ、長年親しみ続けられてきたメインストリートは血に染まり、行き交う人々の代わりに成り果てた肉塊が散乱する。
長年にわたって抑圧され続けた感染者達の不満が、怒りが、苦しみが解放された瞬間だった。
「探せ!一人も逃すな!」
一瞬の位置に入れ替わった感染者と非感染者の立場。追うものは追われるものに。追われるものは追うものに。
弱者と強者。その全てが反転する。
たかが感染者。その様な考えは硝煙と共に消え去った。抵抗するものは暴徒の波に飲まれ、抵抗を諦め逃げることを選んだものたちは弄ばれ殺された。
「ひぃ!?い、いや!来ないで!」
目玉をえぐられ腸を引き摺り出される。宙を舞う自分の手足に、ひっくり返った自分の体。その光景を最後に、搾り出す様な悲鳴は途絶えた。
後に残ったのは原型を残さない肉塊のみ。
真の意味で人以下の獣に堕ちた感染者達はもう止められない。
「お兄ちゃん…」
「大丈夫…大丈夫だ。きっと父さんたちが助けに来てくれる…」
絶対に。その言葉を少年は口にすることができなかった。彼はすでに父親の末路を知ってしまっているから。暴徒の波から逃れる瞬間、人々の隙間から噴き出る血飛沫を見てしまっているから。
少年には涙を浮かべ震える妹を抱きしめながら外に作り出された地獄を見つめていることしかできなかった。
こうして物陰で事が終わることを静かに待つしかなかった。軍が助けに来てくれる。きっと何とかなる。なんとかなるはずなんだと。そう妹に…そして自分に言い聞かせながら。
「引っ張り出せ!」
「いやぁぁぁ!!」
「サラおばさん!」
「見るな!」
血に飢えた獣共にまた一人、また一人と、昨日まで笑い言葉を交わしあった人々が大通りに連れ出され、彼らの目の前に引き摺り出されてゆく。助けを求める声は届かない。獣に人間の言葉が届くはずがないのだから。
ただニヤニヤとした嫌な笑いと嘲笑が帰ってくるだけだ。
嗚呼、やはり感染者は人間ではなかった。
排除すべき害虫だった。
この世界に存在していいものではなかった。
やっぱりみんなが正しかったんだ。
感染者は排斥すべき存在だった。
罵詈雑言を投げつける?石を投げつける?拳で殴りつける?足りない。全てが中途半端で足りなさすぎた。だから叔父さんは死んだ。父さんも母さんもサラおばさんも死んだ。
同じ形をしているから何だ。同じ言葉を発するからなんだ。感染者に慈悲は必要ない。
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