DC-2【薄暮】戦闘後
私がまだ幼かった頃、私には一人の兄がいた。
兄と私は歳が離れており、物心がついた頃にはもう、体を壊した父に代わり、多くの人間を率いるファミリーの頭となっていた。
自分と同じ髪色と目の色。しかし私以上に美しい黒髪と金眼を持った兄は少し変わった人だったのを覚えている。
兄は病に侵された父に代わってファミリーの頭を継ぐために性別を偽り、年齢も偽り、若くして早々に血生臭いギャングの道を歩むことになった。
ファミリーを支えるため、他のグループとの交渉を行い手を結び、時には裏切り、ファミリーの邪魔となる芽は仲間だろうと友人だろうと、摘んできた。
同年代の子供たちが勉学に励んであろう時期だと言うのに、兄は抗争の際、自ら出向き、手を血に染めた。同年代の子供たちが友人と楽しく遊んでいるであろう時期に、彼は自らの手で裏切り者に引き金を引いた。同年代の子供たちが大人という存在に憧れを抱いていた時期に、彼は大人と社会の汚さを知った。
そんな過酷な人生を歩んできた兄は、しかし常にニコニコと笑みを浮かべていた。兄は弱音を吐くことも辛そうな表情を見せることもなかった。
家族はそんな兄を天才と称え、そしてそれ以上に恐れていた。
道徳心の欠けた異常者だと罵った人がいた。
仲間さえ手にかける残酷な人だと怯えた人がいた。
でも、私はそんな兄のことが好きだった。
確かに兄は少し異常だったかもしれない。戦いも、殺しも何もかも、ゲーム感覚で楽しんでいるような人だった。それにたまに意味のわからない言葉を話すこともあった。ちなみに言った本人も意味はわからないようだったし。
その上、血のつながった家族にさえ他人のように敬語を使うし、ニコニコと笑った笑顔を崩したところを私は見たこともない。
けれど、私に取ってはかけがえのない家族だった。
1人複雑なスラム街に迷い込んだ時、探しにきてくれたあの笑顔が好きだった。
敵対するファミリーに人質としてとらわれた際に単身で乗り込み救い出してくれたあの笑顔が好きだった。
いつだって辛いことから私を守ってくれたあの笑顔が好きだった。
その笑みが、私に対してだけは変わらず向けてくれたあの笑みが好きだった。
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