ハーメルン
起きたらマさん、鉄血入り
0.死の間際に人生の決算はやって来る

宇宙世紀XXXX年某日。

「そろそろかな」

清潔な病室、そこに据えられたベッドに寝ていた老人がそう呟く。隣でそれを見ていた初老の女性が悲しげに眉を寄せ、否定の言葉を口にする。

「何を言っているんですか。まだまだやらなければいけないことがたくさんあるでしょう?」

だが返ってきたのは老人の苦笑だった。

「相変わらず手厳しいな。我ながら随分頑張ったと思うのだけれどね」

そう言いながら老人は目を閉じる。あれから随分と時が過ぎた。かつて共に戦った上司も部下も、今では数えるほどしか生きていない。

「おじ様」

「その呼び方も久しぶりだ」

静かに笑い、老人は自らの人生を顧みる。そして随分と上首尾に終わったものだと、この世界で唯一本当の自分の死を知る彼は考える。平和な世界でベッドの上で老衰、しかも親しい人に見送られてなど、いっそ罰が当たらないかと心配してしまう程だ。

「随分と見送ったんだ。そろそろ私もあちらに行くのが筋だろう。まあ、同じところには残念ながら行けそうにないがね」

「そんな事は」

「あるさ、敵も味方も随分殺した。こんな男が天国になぞ行って良いはずがない」

「でも沢山の人も救ったじゃないですか」

「どうかな」

女性の言葉に老人は大きく息を吐いた。成程、確かに自分の行いで人生が上向いた者もいるだろう。手の届く範囲、そう口にしながら出来る限りをしたという自負はある。だが同時にそれは手の内の人間を守るために、それ以外を切り捨てたのも厳然たる事実だ。そしてどちらが多かったかと考えれば、明らかに手からこぼれた方が多かったと彼は信じていた。

「まあ、先のことは逝った先で考えるさ。幸い行き当たりばったりでどうにかするのは慣れているからね…」

「おじ様っ!」

人の命に敏感な女性が悲鳴に近い叫び声をあげた。目の前の老人から魂が抜けていくことを感じ取ったからだ。だがその叫びも、悲しみに歪む表情も見ることなく、老人は静かに幕を閉じた。




「なーんて、綺麗に終われるわけないだろう?コメディアンに観客が求めるのはシリアスじゃない、スラップスティックだ」

気が付いたら俺は舞台に立ち、観客席の最前列に座った人物から、そんな言葉を投げかけられていた。なんぞこれ。

「中々愉快な物語になったがね、残念ながらここで舞台を降りられるのは一人だけなんだ。意味は解るだろう?」

印象の定まらない顔のそれが、そう告げてくる。降りられるのは一人だけ、つまりこいつは俺がどういう存在なのか解っているのだ。一つの体に二つの魂が同居するなんて意味不明な存在である俺のことを。

「アンコールに応える義務は貴様にあるだろう。人生をくれてやったんだ、先に上がる権利位は譲りたまえ」

その言葉に向かって視線を送れば、見慣れた顔の男が立っていた。

「待ってくれ、俺は確かにあんたの人生を変えてしまった。けれどその責任を問うなら俺ではなくこの状況に俺たちを陥れた奴に求めるべきじゃないか?」

「本人を前に責任を取れと宣うとはいい度胸だ」

そう観客席に座るそれが嗤う。

「だがまあ、言い分も解らなくもない。だから一人は保証してやろう」

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