13.悩むのは若者の特権であり、答えるのは大人の特権である
「マさん!あの、何か?」
「3番隊の隊長殿がしょげ返っていると聞いてな。散歩がてら様子見だ」
「べ、別に俺はしょげてなんか」
「暗い部屋に一人で俯いて座っていてか?」
意地悪い笑みを浮かべてそう聞いてくる男に、オルガはそっぽを向きながら口を尖らせた。
「それで、どうした?悩みがあるなら聞いてやるくらいは出来るぞ?」
そう笑う男に、オルガはぽつぽつと内心を吐露しだした。
「なんて言うか、やっぱミカはすげぇなって。強くて、クールで、それでいて度胸もある。MSだって乗りこなしちまうし、最近じゃ読み書きだって出来るようになってる。ガキの頃から、振り返るとあいつの目があるんです。そして目で聞いてくる、次はどうする?次はどんなワクワクする事を見せてくれるって。あの目は裏切れねぇと思っているんです。けど」
一拍置き、オルガはきまり悪そうに口を開く。
「最近思うんです。俺はミカの期待に応えられているのかって。アイツの目に映る俺はいつだって最高に粋がって格好よくなくちゃいけない。そうじゃなきゃ…」
そうでなければ、余りにもミカヅキに申し訳が立たない。自分の口にした夢に向かうため、人を撃ち殺したミカ。自分の力になるために、死ぬような阿頼耶識の施術を三度も受けたミカ。どの行動も全て、オルガの口にした本当の居場所へ向かうために支払われた代償だ。ならば、行き先を示す自分が格好悪くて良いわけがない。
「だってのに、今の俺は全然格好よくねぇ。今日だって俺はブリッジでふんぞり返ってただけだ。ミカは敵の大将を討ち取ってるってのに。こんなんじゃ俺は…」
その何処か互いに互いを思いながら呪いを掛け合うかのように生きる少年達に、男はため息を吐き、そして笑う。
「出来る弟がいると兄貴は辛いな」
「マさん」
「今日のお前はちゃんとやれていたさ。お前はミカヅキと自分を比べているが、今日の仕事で言えば、どちらもちゃんと役割を熟していたよ」
そう言うと男は向いのベッドへ腰を下ろす。
「それにオルガ、お前は重大な勘違いをしている。ミカヅキはお前に連れて行って欲しいんじゃない。お前と一緒に行きたいんだ」
「そりゃ、どういう意味ですか?」
「さっきミカヅキが言っていたよ。俺は戦うしか出来ないから、出来る事でオルガの役に立ちたいとな。誰かにすがってただ後ろを付いていこうなんて思う奴が口にする台詞じゃない。ミカヅキもお前に置いて行かれないよう必死に走ってるのさ。なあ、オルガ」
落ち着いた声音で男が諭す。
「約束を早く果たしたい、一秒でも早くミカヅキを本当の居場所へ連れて行ってやりたい。その気持ちはとても素晴らしくて大切なものだ。けれどな、いつも全力で走っていたら大事なものを見落とすかもしれない。もしかしたら石に躓いて大きな怪我をするかもしれない。事実お前は、一緒に走っている者が必死で喰らいついている事に気付けなかっただろう?」
それに、と続けて男は笑う。
「今のお前は仲間も増えた。その中には走れない者やゆっくり行きたい奴だっている。そいつらを放り出して走れる奴だけ付いてこい、生き残った奴だけたどり着くなんて選択は、あまりにも小さく格好悪いと思わんかね?」
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