22.運命とは都合の良い錯覚である
「え?」
「おっちゃんが言ってた。バーンスタインさんは丁度良かったから利用されただけだって。バーンスタインさんが来なくても、いずれ何か理由をつけて襲ってきただろうって。だから、気にしなくていい。それに」
「それに、なんでしょうか?」
「俺も、俺の仲間も自分達の居場所を守るために戦ったんだ。そこにバーンスタインさんもたまたま居ただけでしょ。俺の仲間は、誰かの犠牲になったんじゃない。だから自分のせいで死んだなんて、誰かのおまけで死んだなんて、馬鹿にしないで欲しい」
そう真直ぐに告げてくるミカヅキを見て、クーデリアは自らを恥じた。彼の言う通り、何という傲慢だろう。自分のせいで死んだ、それは一見彼らの死に責任を負っているように聞こえる。無論クーデリアもそのつもりで発していたが、それは見方によれば、彼らの死は自分の巻き添えで起きた無意味なものだと言っているに等しい言葉だ。それは正しく、自らの為に、そして仲間の為に死んだ人間に対する侮辱にほかならない。
(彼らは、文字通り命がけで自らの居場所を守っている)
明日が来ることに疑問を持たず、その環境をただ与えられていたクーデリアには想像すら出来なかった思考。その一端に触れ、クーデリアの中で何かが叫んだ。こんなのは間違っていると。
「私は――」
言いかけた彼女の言葉は、唐突に響いたブレーキ音と悲鳴にかき消された。
時間は少しだけ巻き戻る。荒涼とした大地に一台の車が止まり、そこから二人の青年が下りてくる。
「正に不毛の大地、だな」
「植民地政策の名残だな、入植初期の水量制限が未だに尾を引いているんだろう」
テラフォーミング初期の火星は現在のように人為的に惑星全土が1Gに保たれておらず、そのため大気や水が定着しない環境だった。都市と呼ばれるアーコロジーを建造し、そこに住む人間は一日に使用する水や空気の使用量が厳格に定められていて、解放後もこれに則った量が地球から供給され続けた。このため解放後も多くは旧アーコロジーの循環システムに依存した生活が営まれることになり、現在の火星は地球に負けないだけの水資源を有しているにもかかわらず大地の緑化は進んでいない。そこに住む人々が困窮でそんな事に気を割くだけの余裕がないと言うのも大きな理由だが。
「それで、こんな所に態々降りてきてまで欲しかった目当てのものは見つかりそうか?」
「…ああ、見ろ」
そう言ってマクギリス・ファリドは手にしていた双眼鏡をガエリオ・ボードウィンへ手渡した。
「あれは、砲撃跡か?」
「数日前からクーデリア・藍那・バーンスタインが行方不明だそうだ。彼女の父親がコーラルに直接会って伝えている。そしてその直後にこの辺りで戦闘があったという通報が入っている」
「つまりコーラルが彼女の身柄を狙って襲撃を?」
「彼女の身柄を確保出来れば統制局の覚えもめでたいだろうからな。火星独立を助長するにしろ、頭を押さえて意のままに操るにしろ、使い道には事欠かない」
「我々の監査などどうという事も無いほどに、か?」
ガエリオの言葉にマクギリスは頷く。
「だが、計画は順調とは言えないようだ。出撃した大隊の内1個中隊が消息不明になっている。コーラルは転戦したなどと言っているが、記録に改ざんの跡があった上に、向かった先の都市ではデモなど起きていない。となれば」
[9]前 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:2/4
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク