22.運命とは都合の良い錯覚である
ミカヅキは腰を折って頭を下げていたために、自然背中が彼の視界に露になる。そこには特徴的な突起が生えていた。
「…阿頼耶識システムか。火星の一部で使われているとは聞いていたが」
「阿頼耶識!?じ、人体に機械を埋め込むなんて…うぷっ」
助手席から降りてきたもう一人の青年がそう呟くや、青い髪の青年は顔色を悪くして車の蔭へ消えてしまう。その様子を困った表情で見送った金髪の青年が向き直り、クッキーとクラッカへと近づく。
「怖い思いをさせてしまってすまない。こんなものしかなくて申し訳ないが、お詫びに受け取ってほしい」
そう言ってラッピングされたチョコレートを青年は少女達に手渡す。キラキラと輝くラッピングに彼女たちが目を奪われている間に、青年は立ち上がると、ミカヅキに向かって謝罪する。
「連れが済まない。彼はその手の話が苦手でね」
「いや、いいですけど」
「クッキー!クラッカ!?」
微妙な空気が流れそうになるのを砕いたのはビスケット・グリフォンだった。離れた場所で作業をしていた彼は漸くたどり着いたのだ。そして目の前の車両に書かれたマークを見て、わずかに目を見開く。
「ああ、そうだ。もし知っていたら教えて欲しいのだが、この辺りで最近戦闘があったかな?」
「えっと」
「ああ!そういえば何日か前にドカドカ煩かったような!夜中に迷惑だなって思ったんですよ」
ミカヅキがどう答えるべきか逡巡していると、ビスケットがそう笑顔で答えた。
「ほう?」
「近所に警備会社があって、そこがよく訓練してるものだからてっきりそれだと。戦闘があったんですか?」
不安そうな顔でそうビスケットが尋ねると、青年は穏やかな笑顔で応じる。
「いや、あったかどうかを現在調査中でね。だから気が付いた事があったら教えて欲しい。私はギャラルホルンのマクギリス・ファリド、火星支部に私の名前宛に連絡をくれればありがたい。そちらのお嬢さん達に何かあっても遠慮なく言って欲しい」
「あ、ありがとうございます!」
「ありがとうございます」
「ああ、ほら、ガエリオ。行くぞ」
頭を下げる二人にマクギリスと名乗った青年は手を上げて応じると、青髪の青年と共に車へと乗りこむ。走り去る彼らをビスケットの険しい目が追いかけていた。
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