ハーメルン
起きたらマさん、鉄血入り
24.解り合えたと思う瞬間こそ最大の誤解である

「以前からそうじゃないかなとは思ってましたけど、相談役って鬼ですよね。僕、ギャラルホルンに追われる身ですよ?それなのに地球行きに付き合えとか」

「船から降りなければそうそう見つかるものでもないだろう。第一本社でも何時も引き篭もっているんだ。大した違いではあるまい」

フレデリックは抗議したものの相手はまともに取り合ってくれなかった。他者ならば追加で嫌味の一つも口にするのだが、フレデリックは沈黙を選ぶ。何しろ相手は大事なパトロンだからだ。

「それで、知らせたい事と言うのは例の件かな?」

「ええ、取り敢えず試作一号が出来たので報告をと。ただ、実際に使うまで保証が出来ません」

阿頼耶識システムの研究者である彼に相談役が最初に依頼したことが、施術に失敗した者たちの治療だった。正直に言えばあまり関心の無い要求であったが、研究環境の継続的確保を望んだ彼はそれを実施する。幸いにしてサンプルは幾らでも居たし、比較対象となる成功例にも事欠かなかったため、研究の進捗は順調だった。

「それにしても酷いものです。よくもまあこんなものがまかり通っていましたね?」

そう言って彼は、施術用のナノマシン注入器を弄ぶ。それを見ていた相談役も困った顔で同意する。

「確かにな。だが仕方あるまい。ナノマシンを解析する技術も設備も持ち合わせていない者が殆どだ、中身の精査などしたくても出来まいよ」

阿頼耶識システムの施術は法的には罰則が設けられていないものの、社会的倫理観において悪しきものだとされている。そのため全ての施術用ナノマシンは裏社会で生産流通しているのだが、これには根本的な概念が欠落していた。即ち、品質である。何しろ流通させている側ですら機材の質がピンキリであるし、知識だって差が激しい。中には生産設備だけを延々受け継いで流しているような、全く知識のない者までいる始末だ。

「施術の失敗は被術者の適合失敗や施術自体の杜撰さに起因するものではなく、そもそも注入しているナノマシン側に問題があるなど想像もしなかっただろうね」

「中には半分以上ただの水で薄められているのまでありましたからね。よく今までばれなかったなと」

「捌く側も買う側もロット管理なんて真似はしていないからね。それこそ何処から買ったものに粗悪品が交ざっているかも把握できない状況だ。特定のしようがなかったのだろうさ」

その言葉にフレデリックは溜息と共にタブレットを取りだす。

「ビルス君をはじめ、所謂施術失敗者に注入されていたナノマシンは全て同一のものでした。これは端的に言えば、コネクタへの生体信号の伝達並びに切り替えを行うナノマシンが只管増えるだけと言う、とんでもない粗悪品です。こんなもの打ち込まれたらどんな人間でも同じ状態になりますよ」

「そんなものが全体の4割近くを占めているというのだからな。まあ、今後は多少減るだろうさ」

「減らした張本人の言葉は重みが違いますねぇ」

研究用のナノマシン精製機などをフレデリックが欲した結果、相談役はサルベージのついでにこうした粗悪品を流している業者を特定、生産拠点の襲撃を繰り返した。このためCGS本社の地下にはギャラルホルンも真っ青というレベルのナノマシンプラントが出来上がっている。

「一応、脊椎動物での試験は成功しました、けれど人体では誰かが試さないかぎり確実な保証にはなりません」

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