ハーメルン
起きたらマさん、鉄血入り
2. 企業とは営利団体であり、社員はそれに準じた権利と義務を持つ


「無理って事は無いだろう?」

何せ火星圏の航路は危険が山盛りだ。300年前に起こった厄祭戦という戦争の名残であちこちにデブリ帯がある上に、それを隠れ蓑にして海賊行為を行う輩も掃いて捨てるほど居るのだ。本来治安維持機構であるギャラルホルンが掃海を行う筈なのだが、火星は地球の植民地的な扱いという事もあり、送られてくる戦力も少なければ士気も低い。そんな中でオルクス商会がしっかりと業績を上げているのは、それなりの理由があると言う事だ。尤も、火星圏では有名な話だからちょっと調べれば直ぐに解った。

「海賊には物資の提供やMSのレストアを請け負う事で見逃させ、そうした違法行為はギャラルホルンに鼻薬を嗅がせて目こぼしさせる。実に強かだ、嫌いではない」

俺の言葉にトドは恨みがましい視線を向けてくる。

「だが独り占めは些か欲張りすぎだろう。他の連中に迷惑を掛けているなら尚更な」

「言いたいことは解るけどさ、マっさん。喧嘩を売るのは拙い相手だぜ」

そう忠告してくるトドに俺は言葉を続ける。

「喧嘩なんて売らないさ。MSを売ってくれないかと聞くだけだよ」

幸いにしてウチは警備会社、ちゃんと登録すればMSの保有も正式に認められている。まあ、真面目に登録する気なんてさらさらないが。

「…本当に何でもいいかい?」

「ちゃんと動くならね」

現在合法的にMSを入手するならば、各経済圏に存在するギャラルホルン認定企業から購入する事になる。正直馬鹿みたいに費用がかかるし、当然その機体はFCSも付いていない純粋な作業機だ。そして扱うオルクス商会も美味しくない。何故ならMSの輸送には非常に高い関税が掛けられていて、企業が儲けにくい環境になっているからだ。これはMSという強力な兵器に転用可能な装備がみだりに拡散しないようにするための措置なのだが、同時に大きな社会問題を生んでいる。
密造MSの横行だ。この世界のMSは非常識と思える程の耐久性を誇る動力と骨格を持っている。なにせ300年前の機体がメンテナンスをすれば問題無く動くのだ。そしてデブリ帯には戦争中に放棄された機体が大量に残されている。無論その殆どは損傷しているわけだが、フレーム側はある程度補修出来るし、元々整備のために交換可能な構造であるために、損傷機を持ち寄って1機分を組み上げるなんて事も不可能では無い。こうしたジャンクから再生された存在しない機体が海賊や民兵組織などに出回っているのだ。当然そんなものを売るのも買うのも大問題であるが、そこはそれ、バレなきゃいいのである。

「今後を考えれば絶対に必要な投資だ。悪いが頼まれてくれないか?」

俺の言葉にトドはがっくりと肩を落とし、力なく頷いた。

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