29.料理に求められるのは愛情でも独創性でもなく、美味しく食べられることである
「芋なんて焼きゃ食えるじゃねぇかよ」
「シノ、次に同じことしたら裸で船から放り出すからな?」
鉄華団一番艦、イサリビの厨房では数人の若者が車座になって芋を剥いていた。因みに文句を言ったノルバ・シノ以外はかなり殺気立っている。
「任せろなんて言ったこいつを素直に信じた俺達が間抜けだったんだ。耐えろ」
「バーンスタインさんなんて絶句してたよ」
因みにメンバーはシノを始め、オルガ、ユージン、ビスケットにミカヅキという豪華ラインナップだ。俺は鍋の中の芋を潰しながらそちらへ声を掛ける。
「世間話は良いが手も動かせ。カレーの無い夕食を私は断固として認めん。もしそうなったら、解っているな?」
金曜の夕食はカレー、これは鉄則である。俺の言葉にミカヅキを除く全員の手の速度が上がった。
「でもおっちゃん、昼食のあれはどうすんの?」
昼のあれとは、シノが制作した自称ベイクドポテトの事だ。適当に洗ってそのままオーブンに放り込むというワイルドな調理の結果、表面は炭化し中身は生という素敵な一品に仕上がっている。因みに昼食を任されたシノが用意したのはこの一品だけだった。
「食い物を粗末にするなど絶対に許さん。ちゃんと食えるようにする」
「どんな魔法?」
ただの調理だよ。
「それにしても随分と俺らも贅沢になったよな。食い物に美味い不味いが言えるなんてよ」
「食えるだけマシ、なんてのが遠い昔に思えるぜ」
「昔は酷かったからねぇ、アトラが来てくれた時のごはんが唯一の楽しみだったよ」
「そんな過去を掘り起こす食事を出した奴がいるけどね」
「ちょ、ミカヅキ!?せっかくいい話で流れが変わろうとしてんのに!?」
「相談役~、玉ねぎ切り終わったよ」
「他に何かお手伝いする事はありますでしょうか?」
再び騒ぎ出すシノ達の声を遮ったのは、ミリーとスピカの二人だった。
「ああ、ありがとう。そうだな、もしよければこちらでその玉ねぎを炒めてくれないかね?」
「はーい」
「承知しました」
ミリーは以前ブルワーズに囚われていたヒューマンデブリの一人だ。宇宙遊泳させた肌色オークの悪趣味に付き合わされていた彼女は5番隊に所属していたのだが、今回の仕事にあたり非戦闘員でありながら同行を求められた数少ない人材である。
「イサリビの厨房は綺麗だから使いやすいですよね」
ブルワーズ時代に給仕の真似事もさせられていた彼女は、装甲艦の厨房を熟知している上に調理技能を有していたのだ。スピカはあまり経験が無いとのことだったが、ナイフの扱いが妙に上手いので専ら食材のカットで助けて貰っている。
「……」
女人度が上がり、急に無口になる野郎共。全く初心な奴らだぜ。ここは俺が一肌脱いでやるとするか。
「そういえば、二人は料理が出来る男ってどう思う?」
「?」
「料理ですか?」
「サバイバル技能の一環として覚えさせようと考えているのだが中々浸透しづらいものでね、もしかして料理というものに何か悪いイメージがあるのかと思ったという訳さ」
そう聞くと二人は首を傾げながら答えてくれた。
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