ハーメルン
起きたらマさん、鉄血入り
4.人間は欲求が満たされていれば、多少の不満は許容できる


「王様?」

そう聞いてくる彼女の言葉の意味が解らず俺は聞き返してしまった。

「だって、相談役はこの会社のナンバー2です。お金だってたくさんあります。1番隊との訓練も見ましたがすごく強かった。けれど足りないと仰る」

「……」

「だから、もっとすごくなるのなら、王様かなって」

王様、王様ね。

「いいね、王様。けどそれじゃまだ足りない」

俺の言葉に彼女は目を見開く。

「王様でも足りないんですか?」

うん、足りない。

「火星の王様じゃ変えられるのは火星だけだろう。俺はこの世界が気に入らない、酷く気に入らない。この世界を変えてしまいたい。だから、目指すなら世界の大王様だろうかね?」




滅茶苦茶な事を口にする男を前に、スピカ・ネーデルは言葉を失った。目の前の命の恩人は、嘯くように世界の王になりたいと口にした。一見すれば、スピカの言った火星の王様という言葉に応じた言葉遊びの類だ。彼女が任されている慰安施設という名の社内売春小屋に足繁く通う男たちが口にしたならば、笑って茶化していたことだろう。

(だって、あれは本気の目だ)

浮かべていたのはいつもの軽薄な笑み。口ぶりだって普段通り周囲を煙に巻くような言い回し。だがその中で、目だけは全く笑わず、その言葉がどこまでも本気だと雄弁に語っていた。

「大王様になって、相談役はどんな世界にしたいんですか?」

それを理解した瞬間、スピカの口からそんな言葉が飛び出した。何処までも胡散臭い男が口にする安っぽい法螺話。けれどヒューマンデブリと呼ばれる少女はその続きがどうしても聞きたかった。

「そうだな、誰もが明日が来ることが当たり前で、そんな不安を口にすれば笑われる。そんな世界がいいな」

それは一人の人間が見るには、あまりにも壮大すぎる夢物語。けれど絵空事と笑い飛ばすには眩しすぎて。もっとその先を聞きたくなって。だから、彼女の口は熱に浮かされたように言葉を紡ぐ。

「そこには、その世界には、私の居場所もあるのでしょうか?」

彼女の言葉に男は一瞬目を見開いた後、少し怒った口調で語り出す。

「当然じゃないか。私は皆と言った。皆だぞ?皆とは全員という意味だ。地球に住んでいる奴だけだとか、コイツは例外なんてものがあるのは全員とは言わない。第一世界を変えるんだ、そんなみみっちい夢を叶えてどうする?今度こそ俺は――」

男が熱く語るが、スピカは殆ど聞き取ることが出来なかった。溢れてこぼれそうになる涙を堪えるのに必死だったから。

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