5.成功には才覚が要る、そして才覚のある者は少ない
「なんだ、悪名高い人さらいの親玉が浮浪児の事を心配するなんざ滑稽か?」
「はっきり申し上げれば、驚いています。まあ、良い方の驚きですが」
「…俺だって正論だけで生きられるならそうしていたさ」
会社を興し人を雇えば、そこには必然的に彼らに対する責任が発生する。凡人のマルバには綺麗ごとだけで彼らへの責任を果たせるだけの能力がなかった。だが同時にそれが出来るならば、綺麗ごとを優先する程度に彼は平凡な男だった。
「あの馬鹿のおかげで資金繰りは順調なんだ、経営拡大を狙うなら今だろう。引き続き人員の募集を――」
そう今後の方針をマルバが告げていると、遠雷のような地響きと共にオフィスが僅かに揺れる。不審に思ったヤスネルがブラインドの隙間から外を見ると、巨大なトレーラーが格納庫へ向けて移動していた。
「トレーラー?」
「また何かしでかしやがったか!?」
ヤスネルの言葉にマルバはそう叫ぶと格納庫へ向けて走り出す。暫くしたら社長の中年太りが解消しそうだなどと、どうでもよい事を考えながら二人は肩をすくめるのだった。
「おまっ!これ!?なぁ!!?」
搬入作業に立ち会っていたら、息を切らせたマルバが走り寄るなりそう叫んだ。うむ、中々の反応速度だな。別に大したことじゃないからどっしり構えてればいいのに。
「お前、いったいこれは何なんだ?と言うところか?」
見ての通りですよ?格納庫でも一番奥のスペースに移動したトレーラーの荷台からシートがはがされる。そこには仰向けに寝かされたMSが鎮座していた。
「どーよぉ、マっさん。ご注文の品だぜぃ!」
トレーラーの助手席から降りてきたトドがどや顔でそう告げてきた。俺は笑顔でサムズアップし、トドに応える。
「パーフェクトだ、流石だよトドさん」
注文した通りの満額回答に思わず頬も緩むというものである。入ってきたトレーラーは4台。内3台にはMS、そして残りの1台には武装や補修用の装甲材などが積まれている。
「ご要望通り全部ロディ・フレーム!ちゃんと交換用のシートもセット!まあ、ちょっとばかし値は超えちまったけどね?」
そう言って彼はタブレットの画面をこちらに見せてくる。うむ、想定より30%程高いが、十分許容範囲だ。同じようにタブレットを見ていたマルバが目を見開くとトドからそれを引っ手繰り、わなわなと肩を震わせた。
「こ、ここ、この、こ!?」
うん流石に何言いたいか解んねえや。
「鶏の真似かね?あまり似ていないぞ、社長」
「これ、おま、この額!?」
そんなに驚く額か?たかだかわが社の年間運営費4年分じゃないか。知ってんだぞ、内部留保が大分貯まってんの。
「そろそろ所帯もでかくなってきたからな、事業拡大の時期だろう?その為の投資だ」
もっとも、この事業が上手くいくかはマルバ次第だったりするのだが。状況がまだ呑み込めないのか、酸欠の鯉みたいに口を開け閉めするマルバの肩を強く叩き、正面から見据える。頼むぜ社長、こんな程度で怖気づいてもらっちゃ困るんだよ。
「しっかりしろ、社長。もう買ってしまったんだから後には引けん。この事業の成否はお前の双肩にかかっている」
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