三人以上いる時は、ぜんぜん喋らないよね。
「アタシここに住むわ。家賃いくらよ?(真顔)」
運転中のランボーに、コアラのように抱き着くメスガキ刑事が、首筋のあたりをクンカクンカしながら言った。とても息が荒い。
「おじさんの腕の中、ドロドロに甘やかされて生きてゆくの。
あと5年はこの体勢でいるわ」
「いや……、保安官の仕事はどうするんだ?
君がいなければ、この町の安全が……」
「そうね。じゃあ条件をテージしていってちょうだい。
お互いの意見を擦り合わせ、より良い形でケーヤクしなきゃね。
敷金返金はいかほど?」
「話を聞いてくれん……。君は一体どうしてしまったんだ」
おめめがグルグルしている。この子がいま正気ではない事が、もう一目で分かった。
あったかーい☆ いい匂ーい♪ うっほほーい! みたいな事を、延々と口走っている様子。
喜んでくれるのは嬉しいのだけれど……ずっとこのままは困る。
「“子連れ狼”ってゆーのあるでしょ?
あんな風にアタシをだっこしながら、町の保安をやればいいと思うわ♥」
「そんなの、俺は見たこと無いな……。
治安を守るんなら、ある程度の威厳は必要だろう」
「そぉ? いい考えだと思うんだけどなぁー。
おじさんつよつよだしぃ~、みんなゆーこときくと思うよ♥」
そんな事は無い。現に今、ランボーは少女を膝から降ろせずにいるんだから。
たった一人の女の子にすら、言うことを聞かせられないのに、威厳もクソもあったものじゃない。
いくつもの勲章を授与され、ベトナムの英雄と言われた男も、メスガキにかかっては形無しであった。甘々だ。
とにもかくにも、まるで親子のようにこの子を膝にのせ、引き続きメスガキシティを巡回中のランボー。
先程までは少しおかしくなっていたが、いま彼女はニコニコと微笑んでおり、ランボーとのドライブを楽しんでくれている模様。
たまに彼女の中の“何か”が爆発する事はあれど、この子は実際の年齢よりもずっと大人びていて、ちゃんと良識もわきまえている子だ。
流石はこの町の守り手たる、保安官と言った所。
ランボーの方も、メスガキ刑事との心地よい雑談に興じつつ、安全運転を意識して車を飛ばす。
ここは何もない田舎町と称されてはいるが、穏やかで温かい人の営みがある。平凡だけど美しい景色がある。
それを車内からのんびりと眺めつつ、二人でパトロールを続けていた。
「いい町だな、ここは。
君が誇りに思うのも分かる」
「でっしょ~!
まぁぶっちゃけ、住んでるのは、ひとクセもふたクセもあるような子達ばっかだけど……。
でもみんな良い子よ♥ なかよくしてあげ……」
――――それを言い終わる前に、急ブレーキが踏まれる。
今ランボー達が乗る車の前に、突然小さな影が飛び出して来たのだ。
「んぎっ……!」
「ッ!!」
咄嗟にブレーキを踏みつつも、しっかり右腕で少女を抱きかかえる。
さっきまでの穏やかなムードを、キキーッという耳障りな音が消し飛ばす。
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