ハーメルン
記憶のオーバーロード
第12話 教祖生まれよクソは死ね

 悔い改めるときが来た、と申し上げねばなりません。

 これからお話しする物語に登場する方の一部は既に故人であり、しかもその罪の重さ故に復活も叶いませんでした。その方々は復活を許されないことによって裁かれた方々であり、その罪を鳴らすことは私の本意ではありませんのでお名前は伏せさせていただきますが、私がお話しすることは誓って事実であり私自身が体験したことだ、ということは前以てご理解いただきたいと思います。

 その夜、私は聖騎士団見習いとして行軍訓練に加わっておりました。
 三日ほど前に長城を越えて丘陵に入り、日中に僅かばかりの仮眠をとって夜間はひたすら行軍する、というそれは厳しいものでしたが、その時点での私は、これも聖なるお勤めと信じておりましたので、不満を漏らすこともなく、ただただ遅れることはあるまいと必死に食らいついておりました。

 問題の夜になって、俄に隊列前方が騒がしくなり私たちには弓と火矢と火口箱が配られました。まさか突如実戦になるとは思っておりませんでしたので内心私はおろおろとしておりましたが、こうなったからには心を決めてお役目を果たす他ないと、分隊長の指示に従ったのでした。いつの間にやら、私たちは亜人の小さな集落を囲んでおりました。亜人たちは寝静まっていると見えて物音一ついたしません。合図をするまで火口箱を扱ってはならぬ、と厳命を受けました。

 どのくらいたったでしょうか、私たちのいる場所から集落を挟んで反対側で鬨の声が上がりました。後で知ったのですが、騎士団長率いる別働隊が陽動のために先行したものでした。いくつかの幕屋(テント)から山羊人(バフォルク)の戦士たちが飛び出し、それで初めて私はここが彼らの野営地であることを知りました。彼らはごく僅かな守備兵を残して別働隊の方へと向かいました。別働隊は、一旦仕掛けた後は退却を擬態したようで、山羊人の集団はその後を追っていきました。
 その気配がぎりぎり感じられなくなるくらいに離れたとき、分隊長が手信号で火矢の準備と即時の斉射を命じました。私は高鳴る鼓動を堪えつつ、とにかく落ち着いてお勤めを果たそうと言われた通りにいたしました。私たちの放った火矢はたちまちに山羊人の幕屋を炎上させ、集落は大混乱に陥りました。

 燃え上がる幕屋の中からは次々と山羊人が飛び出して来ましたが、その多くは小さな子どもを抱えておりました。ご承知のこととは思いますが、山羊人にはその年に生まれた子どもたちだけを集めた集落でそれを養育する習慣が御座います。私たちが夜襲した集落がまさにそれだったのです。
 その時点での私は、これは偶然に生じた不幸な出来事だと思っておりましたので、相手が亜人とは言え、子どもを連れて逃げ惑う彼らに次々と火矢を浴びせかけることには大変心が痛みました。が、分隊長は攻撃中止を命じては下さらず、逆に、もう火は用いずともよいから子どもを抱えて集落から逃げ出そうとする山羊人を狙撃せよ、と命じられました。

 私の心は揺れました。

 果たしてそんなことが許されるのだろうか、と。
 これが聖騎士の勤めと言えるのだろうか、と。

 ですが同時に私は、これは私の弱い心に悪魔が囁いているのではないか、とも思いました。

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