第4話 ド・クロサマー王国建国神話・後編
「村を救って下さったのは髑髏様です!」
戦士長失踪事件調査団に接収された村長宅の様子をこっそり伺っていた少女、エンリ・エモットは、いささか短気に思われる貴族然とした男が村長を詰問、恫喝するのに耐えかねて、そう言いながら室内に踏み込んだ。
(きっと、本当のことをお話しすれば、貴族様もわかってくれるはず。)
少なくともこの時点では、無邪気でやや天然のきらいのある無垢なこの少女は、そう信じていたからである。
共にあった妹、ネム・エモットもそれに続く。
「……なんだおまえらは!」
土臭い農民風情が断わりもなく自身に話し掛けてきたことに、チエネイコ男爵は怒気を荒らげたが、エンリはそのような機微には気づかない。
「あぁ、さきほどお話ししたエモットの忘れ形見に御座います。」
と村長が執り成しにもならない執り成しを試みるが、その言葉は怒り心頭のチエネイコには既に届かない。
対するエンリは、とにかく真相を説明せねばならない、という純粋な善意から身振り手振りを交えて、相手の反応も待たずに喋り始めた。
「すっごかったんです、髑髏様は!
こう指差して、バリバリバリッって……」
とエンリは<龍雷>を放ったモモンガを真似るが、無論その真のところは男爵にはまったく伝わらない。
「待てまて!
すると何か?
そのドクロ様とやらがこの死体の山を築いたと言うのか?」
「いえ、違います。それはアルベド様です。」
(おいおい、またかよ……)
とチエネイコは息を吐く。
立腹しつつもようやく何が起こったのか説明し得る人間が現れたことを歓迎しないでもない彼であったが、また話がループし始める気配を見せるので、イライラが振り切ってしまって、むしろ辺境のさらに辺境の田舎者なんてこんなもんだ、と妙な悟りの境地にすら至りつつあった。
「……で、なんだ、そのアルベド、というのは?」
「はい!
髑髏様の配下の方で、とっても綺麗な……と言ってもお顔は拝見していないのですが、お声からするときっとびっくりするくらいお美しい方です!」
(グァー、誰か通訳を連れて来てくれ!)
要を得ない点ではのらりくらりの村長のさらに斜め上を、しかもまったく悪気なく突っ走るエンリにチエネイコは髪を掻きむしるが、当のエンリにそれを気にする様子はない。
ひょいとジャンプしながら、
「こーんな、柄の長い斧みたいなものを、こう……」
アルベドの得物の長さを全身で表現したかと思いきや、その立ち回りを再現して見せるが、チエネイコからすれば意味不明な盆踊りの類だ。
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